「ITエンジニア本大賞2023」ビジネス書部門大賞を受賞したということを知って読んでみました。って、別に毎年大賞の本を読んでるわけではないんですけどね。読むといいだろうとは思うけど。たまたま受賞インタビュー記事を見かけて面白かったので読んでみたというところです。
メタバースという単語は聞いたことはあったけど、正直バーチャルリアリティを言い換えただけのバズワードだと思ってました。でも違ったんですね。すいません。これまでさまざまあったVR関連技術の集大成としてソーシャルVRという新大陸が形成されつつあるということ。なるほどね。
本書のいいところはそんなソーシャルVRの世界を知らない人に向けて一からどうなっているか説明しているのに加えて、過去のどんな技術や概念がベースになって発展してきてるかということも説明してくれていること。多分界隈に居る人にとっては自明であってわざわざ説明するまでもないことだと思われてると思うけど、門外漢からするとこういうのってすごく理解に役立つんですよね。とてもありがたいです。
筆者はメタバースというかソーシャルVRの世界にどっぷりつかっている人だし、本書自体はメタバースの啓蒙なので、当然いいことがいっぱい書いてある。これが人類にとって革命であって、メタバースは新大陸であって、人類が進化していくと説く。言われてみればそうかもしれないと思うし、その可能性もあるかなと思う。革命は起こってしまったら当たり前になってしまうという話があって、例えばインターネットの普及は真に革命であったんだけど、起こってしまって以降はみんなそれを当たり前のこととして受け止めていて革命であるとも意識していない。インターネットの普及に匹敵する革命はSNSかなぁと個人的に思ってるんだけど、メタバースはそれに匹敵する革命になる可能性は秘めてるかなと思いました。
VRでオッサンが美少女になる話の話のように、VRによって身体とシンクロさせることで自認を置換できるそうなので、ソーシャルVRでも同様のことが出来る可能性はあるかな。というか筆者は実際にそうだって言ってるよね。ただ、筆者は現実世界の名前も性別も肉体もすべて捨て去って仮想世界でなりたい自分に生まれ変わることが出来ると説くけど、それってソーシャルVR世界での圧倒的成功者である筆者だから言えることであって、現実で平凡な人間が仮想世界でも平凡となるだけってのが大多数になったりしないかなぁという気もする。要するに高校デビュー大学デビューみたいなもので、環境と人間関係がリセットされるのを機会になりたい自分にキャラ変するきっかけの一つがソーシャルVRだよねって理解です。ソーシャルVRは外見や性別まで変更することが出来るけど、高校デビュー大学デビューの機会に髪型や服装を変える人は居るから、その進化系ともとらえることができるかな。そして高校デビュー大学デビューに成功する人もいるけれど、うまくいかない人も当然にいる。そのキャラ変失敗による敗北感みたいなのは、今後ソーシャルVRが普及するに従って増えていくんじゃないかな。今はまだアーリーアダプターしかいないから問題になってないけど。インフルエンサーにあこがれてSNS始めたけどフォロワー全然増えないとか、YouTuberにあこがれて配信始めたけど再生回数2桁とか、いくらでもある話だよね。
あと、ソーシャルVRでの人格にシンクロが高まりすぎると、現実肉体との乖離が進むんじゃないかという気がする。筆者自身もソーシャルVRで過ごしたあとに現実世界で鏡を見てこれ誰って思うって書いてるしね。VR世界で理想の肉体を得るほどに現実肉体との差は大きくなるわけで、そこの乖離から新たな種類の精神疾患が生まれたりするんじゃないかなぁ。最悪自殺者が出て社会問題になるとか。完全にVR世界に移住できるならいいんだけど、そんなマトリックスの世界はまだしばらく先になりそうだし。VRを精神疾患の治療に使えるわけだから、逆に精神疾患を引き起こすことだってあり得る話だよね。
本書でも少し記述があるけど、ソーシャルVRは仮装とはいえ肉体に縛られてる。テキストSNSなどの方が肉体からも解放されていて高次な存在という考え方はあると思う。一方で、現実肉体からの縛りは絶対に解けないわけだから、その現実肉体とのシンクロによってソーシャル世界に高度にとけ込むというのも、それはそれで一つの方法かなという気もする。
とかまあ、いろいろ考えることが出来たので非常に面白い本でした。筆者の方ありがとうございます。自分でもソーシャルVRにどっぷりとまではいかなくても、少し体験してみるくらいはやってみたらいいなぁと思うけど、体験するだけにはHMDを始めとした機材は高いんだよなぁ。スマホとかでもとりあえずやる方法もあるそうなんだけども。ちょっと調べてみますか。