3月です。卒業、そして入学のシーズンです。入学時期になると制服の話題も多くなります。近年、制服代が高いという声がニュースになることが増えてきたように思います。曰く、ユニクロなら数千円で買えるような服が、なぜ制服だと数万円もするのだと。貧困に絡めると、これは立派な社会課題ではありますね。
さて、制服が高い話ですが、それは本当でしょうか。批判派は学校と指定業者による癒着だと指摘します。その可能性はゼロではないでしょうが、果たしてそれは真実なのかなというのがこの記事です。
批判に対する反論として、ユニクロとは格段の品質差があるから価格は妥当だというものがあります。それが真実だとしても、普段ユニクロなどの低価格衣料しか購入していない世帯にとって、制服でいきなり高額な衣料を買い求めるのが負担であるという構図は残りますね。
さて制服の価格が妥当かというところで、制服ならではの特性がいくつかあるのかなと思うので、それについて書いてみます。一つはサイズがオーダー制であること。もう一つは極端な短納期であること。
制服は一般に採寸会があって、一人一人にあったサイズオーダーで制作されます。一方比較されるユニクロはサイズも含めた既製品です。スーツだってテイラーでサイズオーダーすれば数万円するのが普通ですが、吊しのスーツなら1万円程度で買えたりしますよね。既製品とオーダー品はかかる手間に違いがありますし、その手間はほとんどが人件費ですから、価格差も当然に発生します。
もう一つは短納期であること。推薦入試などでは前年のうちに合格が決まっていることもありますが、一般入試は2月から3月がほとんどです。合格発表があってからも複数校に合格していれば、そのうちのどこに進学するかを考える時間もあります。結果として、進学する学校を決定するのは3月も半ばになったりもするわけですね。それからようやく採寸会が行われ縫製が行われるのですが、制服が必要になる入学式は4月です。どんなに前倒しでスケジュールが進む学校でも1ヶ月、下手すれば1週間程度しか縫製の時間がとれません。しかもこれが1校で数百着、全国では数十万着が同時に発生する需要です。この時期、全国の縫製工場ではフル稼働のうえに人の奪い合いが起きていることでしょう。この1年のほんの一時期のみに需要が集中するというのは雇用の面では非常に面倒で、高い給料で雇っても制服需要期以外の時期は仕事がありませんし、では制服需要期のみの雇用とすると、労働者にとっては非常に働きにくい職場ということになります。
既製品の衣料では一般に人件費の安い中国農村部や東南アジアで縫製が行われます。そうして人件費を安くして製品価格に反映させているわけですが、制服の短納期ではおそらくこうした海外の安い縫製工場は使えない。縫製指示自体はネット経由で瞬時に行えたとしても、出来上がった大量の制服を日本に素早く送る手段がありませんからね。船便では間に合いませんし、航空便では運賃が高すぎます。結果、おそらく大半の制服が人件費の高い日本国内の縫製工場で作られているのではないでしょうか。昨今の経済状況から日本人の人件費は相対的に安くなってるという悲しい話もあったりしますけどね。
では制服も既製品を用意すればどうだというアイデアもあるでしょう。実際スーツは既製品で対応できており、センチ単位で複数のサイズ品を事前に用意しておけば縫製は1年間かけて平準化して対応出来るでしょう。しかしこれも制服ならではの問題があります。それは販売数が極端に少ないこと。制服は基本的に学校ごとに違います。よほどのマンモス校は別として、1校あたりの新入生はせいぜい数百人です。ということは制服の需要も数百着です。数百着の複数サイズを事前に用意しても、サイズによって需要は違うので不足するサイズと余るサイズが出てきます。全体の需要が小さいですから、こうした過不足の吸収余力は小さく、対応が難しくなります。入学式が目前という事情は変わりませんから、品切れになったサイズを追加生産するのは超特急です。一方、余ったサイズは1年後になるまで売れる見込みはありません。既製品というのは大量生産するからこそコストメリットがでるのであって、多品種少量生産である制服には向いてないことになりますね。
制服については冒頭に書いたとおり貧困問題とも絡む社会課題であるという性質があります。また、そもそも制服不要論もありますし、一方で制服があることで貧富の差が可視化されないメリットも指摘されたりもします。価格ももちろん高くていいというものでもないので値下げの努力はあるべきではあるのですが、制服自体の特性でなかなか値下げしにくい事情もあるのではないかなということで書いてみました。実際にどうなのかは知りません。