ここ最近マルハラというものが話題になっています。LINEなどで文末に句点(。)をうつことをハラスメントととらえることだそうで、ハラスメントもここまできたかと思いましたが、落ち着いて考えてみるとそう単純な話でもないのかなという気もしてきたので少し書きます。例によって何も調べてない、ただの自分の経験と想像だけの主張です。
結論から言えば書き言葉と話し言葉のせめぎあいで起こった不幸な衝突かなと思います。以下、もうちょっと詳しく書いていきましょう。
日本語には大きく分けて話し言葉と書き言葉があります。さらに古くは文語体と口語体があるのですが、文語体は現代日本ではほぼ使われなくなってしまって、口語体を文章にする書き言葉と、日常会話そのままのくだけた話し言葉が使われています。
電子メールが普及し出したころ、友達同士のやり取りはともかくビジネスメールの世界では手紙のマナーが踏襲されました。拝啓/敬具まではさすがに引き継がれませんでしたが、まず相手の名前を敬称付きで書き自分の名乗りと「お世話になっております」で始めるというあたりはフォーマットとして確立しましたね。文章としても書き言葉が使われます。
一方LINEなどのメッセージツールで交わされる言葉は、起源はポケベルメッセージでしょう。最初は数桁の数字しか送れませんでしたから、そこには句点どころか文章すらありません。単語もまず収まりませんから、暗号のような略語が飛び交っていました。SMSなど、徐々に長い文章が送れるようになっても、必要最小限の短文のみを送るというスタイルは継承されています。その延長線上に現在のLINEなどのメッセージツールがあるわけですね。
また、メッセージツールがおもに友達同士のやり取りで使われることもあり、そこで交わされる言葉もビジネス現場とは全く違うものになりました。日常のたわいない会話ですから、まさに話し言葉が使われます。書き言葉では日本語として正しい文章が使われますから句点も当然にうたれますが、話し言葉にはそもそも句点がありません。また文法すら怪しいです。文法的に正しいかよりも意思の疎通が出来るかどうかが重要視され、しかもそのスピードは速い方がより良い。スピードが速い方がより多くの情報をやり取りできますからね。スピード重視であれば省略できる文字は省略した方がいいですから、情報伝達に必須でない句点などうたないのが当然であり、わざわざうってあればそこに何か句点を打たなければならない意図が存在するのでないかと考えるほうがむしろ自然ですね。これがマルハラの正体かなと。
なお、ビジネスメールがマナーに厳しく、LINEがマナーに緩いとは限りません。ビジネスメールでは返信が翌日になっても問題になることはまずありません。当日に返信が必要な急ぎの要件なら電話なり別の手段で伝達しますので。一方LINEなら返信に10分かかっただけでキレられることもあります。求められるマナーが違うだけで、どちらにもマナーがあります。
このように書き言葉の電子メールと話し言葉のメッセージツールという別々の文化圏がネット社会に共存してきたのですが、その接点として登場したのがビジネスチャットです。ビジネスチャットを電子メール文化圏の延長と考えるおじさん世代は当然にビジネスチャットでも書き言葉を用います。ビジネスチャットで「お忙しいところ失礼いたします。」などで始めないと怒る部長さんとか、あちこちで見ますよね。俺らの若い頃はこんな失礼なことをしなかったと怒りますが、そもそも部長さんが若い頃に電子メールはあってもビジネスチャットはありませんでした。そこんところを誤解して叱るから、若い世代に話が通じない。
一方、ビジネスチャットをメッセージツールの延長ととらえる若い世代は、そこで使用する言葉は当然に話し言葉です。伝えるべき内容を必要最低限の言葉で書き記すのみですから、「お忙しいところを」なんてそもそも書きませんし、句点もうちません。句点がうってあったらそこに逆に意図をくみ取ろうとしてしまってマルハラになってしまう。
要するにビジネスチャットがどういう位置づけのツールであるかの認識が違ったまま使われていることで衝突が起こってるというわけではないかなというのが私の考えたところです。なので、ビジネスチャットが使われ続けていくうちに、だんだんとどういう位置づけかという認識が揃っていく中で、マルハラ問題も消えていくのではないかと思います。マルハラを指摘する記事も、認識を揃えるための地ならしをおこなっているものと言えるでしょうね。警戒しなきゃいけないのは、ここをビジネスチャンスととらえて余計なマナーを構築しようとするマナー講師くらいでしょうか。というか、既にビジネスチャットマナー講座なんて無数に存在しそうですね。見つけても気が滅入るだけなので検索しませんが。