CivicTechのプロジェクトを成功させるために心がけていたこと
素晴らしいシビックテックの活動に対してネガティブ方向の反応をしてしまって申し訳ないのですが、ちょっと思ったことを書き出してみたいと思います。決してリンク先の活動を否定するつもりはないんですけどね(ちょっと否定してるかもしれないけど)。
リンク先は、不妊治療を行っている病院の治療成績を可視化するというものです。活動を行ってる方は本職がデータサイエンティストだそうなので、多分私が今から書くようなことは全て了承したうえで行ってらっしゃるのだろうと思います。だから指摘する意味はなくて、単に自分の覚書のようなものです。いろいろ言い訳が多い。
不妊治療に限りませんが、当事者になったときにその病院の治療成績は非常に気になるところだと思います。そりゃま当然ですね。かかってみてやぶ医者だったと後で分かったら後悔しかありません。かかる前にやぶ医者であるとわかっているなら避けたいですよね。妊娠率が50%の病院と10%の病院があったとしたら、そりゃ誰だって50%の病院にかかりたいと思いますよね。そういう意味では、治療成績の情報が公開されて可視化されるのはとてもいいことだと思います。病院側としても治療成績をアップさせるモチベーションになり、治療技術の向上に資することでしょうし。
ただ、可視化ってこうしたいいことづくめではないんですよね。それはデータは容易にハックできるから。例えば不妊治療だったら妊娠しにくい高齢の女性を適当な理由をつけて追い返し、若い女性のみを対象にすることで、とても簡単に妊娠率を上げることが出来る。真面目に治療技術を向上させるより、高齢女性を門前払いする方が簡単ですから、病院側にはそうしてしまうインセンティブが発生してしまう。そのインセンティブを発生させたのは、妊娠率のデータが可視化されたことなんですよね。
同じようなことは不妊治療に限ったことなく、いろんなところで起こってます。週刊誌には病院別ガン生存率ランキングなんて記事がありますが、これ早期発見早期治療を徹底すれば簡単にランクは上がる。末期がんの患者は適当な理由をつけて転院させることも横行しかねません。データを可視化した週刊誌記者はもちろん週刊誌が売れればと思ったんでしょうが、医療技術の向上に資すればなとも思ったことでしょう。でも現実には末期がん患者の押し付け合いを生んでしまいかねない。同様のことは学習塾の有名大学合格率でも、専門学校の業界就職率でも起こります。なんなら飲食店のレビューサイトでも起こってる。数字になってランキングされるようになると、ランキングハックは自動的に発生してしまう。
以前マスコミの未来で、一次情報がありさえすれば的確に情報分析と判断が出来るのはインテリに限られると書きました。これは今でも考えは変わっていません。不妊治療の治療成績が公開/可視化されて、どの病院が自分にとって最適かを判断できるのはごく一部のインテリの方だけだと思います。大多数の大衆は、単にランキング上位の病院に駆け込むでしょう。その病院がランキングハックしているかもしれないのに。
つまり私が何が言いたいかというと、情報は公開/可視化されればいいのだろうかということです。インテリの人にとってはそれでいいのですが、インテリではない大多数の大衆にとってはどうだろう。だからって情報を隠蔽すればいいというわけではないのですが、公開されたうえでその情報を適切に分かりやすくかつ偏りなく再整理する存在が必要なのではないかということです。それが既存のマスコミに期待される役割でもあるのですが、マスコミ自身はその役割を放棄してしまっているよなぁというのがイマココで、ではどうしたらいいんだろうと考えあぐねるところです。