まあ、タイトルそのままだよねって話ではあるんですが、一応具体的な話を書いてみます。
今や SaaS を業務で使うのは当たり前になりました。いまだに紙と電卓で業務を回している昭和な企業もあるとは思いますが、大抵の企業が業務で SaaS の一つや二つ使っているかと思います。IT 化だの DX だのと言われていますので、SaaS を導入するのもよいかと思います。ただ、なんでもいいからとにかく SaaS を導入してた時期を過ぎて、そろそろ過渡期になってきたのではないかなぁというお話です。
利用している SaaS が一つだけなら話は簡単です。一つだけとすると、まあグループウェアになるでしょうか。サイボウズとかですね。でも、大抵の会社は複数の SaaS を使い分けていると思います。Asana などのタスク管理、Confluence のような共有ドキュメント、Teams のようなチャット/TV会議、Miro のようなホワイトボードなどなど。新入社員があると情シスのスタッフはそれぞれに対してアカウントを発行しますし、各社員は業務のなかであっちこっちの SaaS にアクセスしなければなりません。アカウントも当然別々ですから、ログインも都度行わないといけませんし。シングルサインオンに対応していればアカウント管理は簡略化できますが、ログインは結局しなきゃいけませんし、採用してる SaaS が全てシングルサインオンに対応しているとも限りません。
また、SaaS 導入から何年もたっていると、Saas 乗り換えも出てきます。SaaS は当然競合もありますので、競合の方が機能やコストで優れていたら乗り換えますよね。乗り換えるのはいいんですが、過去データはどうしましょう。全部データ移行出来るような幸せな移行組み合わせだったらいいんですが、大抵はそうはいきませんよね。過去データはばっさり捨てれるならそれでもいいんですが、そうもいかない場合。結局新旧両方の SaaS を利用し、ある時期以前のデータはこっちの SaaS、以降はこっちの SaaS を使うってなってしまいます。でも中には区別がつかずに旧 SaaS で更新する人が出てきてしまったり。閲覧のみのアーカイブモードに出来る SaaS だったらいいんですけどねぇ。
全社員がこれらの SaaS をうまく使いこなせるなら問題ありません。まあ、世の流れとしては使いこなしなさいってことにはなっていますが、実際には簡単なことじゃないですよ。みんながみんな、そんなに IT スキルが高いわけではないですからね。そんな昭和社員はクビすればいいんだって気軽に言いますけど、平成世代や令和世代だってこんなにたくさんの SaaS を使いこなせるかっていうと、万人がそうとは限らないですよね。使いこなせる人が自分を基準に考えてるから「こんなの簡単だ」って言ってるけど、実際にはそんな簡単な話ではないと思います。
ということで、SaaS はとにかくあればそれでいいという普及期を過ぎて、そろそろ成熟期に入っていくのではないかなと思います。というか、そういう方向に進んでいかないと、これ以上の普及が難しいのではないかと。現状、多数の Saas が乱立してなんとかなっているのは、IT スキルが高い一部の人だけの間で使われているからだと思うんですね。もっと IT スキルが低いレベルまで普及させようとすると、今のままでは難しいんじゃないかと思います。
では実際どうなればいいかっていうと、SaaS の統合ですよね。一つの SaaS であれもこれも、何でもかんでもできてしまう。統合型 SaaS になる。例えばの話、上述したタスク管理だのドキュメント管理だのチャットだのは全部サイボウズの中にも実装してしまえばよい。サイボウズに実装したものは機能的には劣るかもしれません。ていうか、専門の SaaS の方が高機能になるのは当たり前ですよね。でもサイボウズに統合されていれば、多くの社員が困らずに使うことが出来るようになる。全員の IT スキルの高い会社はこれまで通り複数の SaaS を使い分ければいい。そんな感じになるのが今後の流れではなかなぁという気がします。
(2023/12/6追記)
上では縦方向にSaaSが多すぎる問題を書きましたが、横方向にも多すぎるんじゃないかと思っているので書きます。縦横ってのは言い方として適当かどうかちょっと自信ないんですけどね。ここでは縦方向というのはSaaSの種類がたくさんあること、横方向は同種のSaaSをたくさんの事業者が提供していることとします。
例えばブログサービスを考えましょうか。かつてのブログブームのころは雨後の筍のようにたくさんのブログサービスが登場しました。現在はだいぶ淘汰されたと思いますが、それでもたくさんのブログサービスがありますよね。そのたくさんの選択肢があることは、果たして社会全体にとって利益になっているのだろうかというのが書きたいことです。
ブログサービスがたくさんあることのデメリットをまず考えましょう。ユーザはブログを始めたいと思ったときにたくさんの選択肢から選択しなければなりません。選択肢があることはいいことですが、比較検討が大変になるほど多いのは困りものです。
また、これだけたくさんのブログサービスがあるということは、それぞれに提供事業者がいるということです。それぞれに開発のITエンジニアがいて開発して、サーバが運用されて、料金を徴収するスタッフがいて、広告するスタッフ、サポートするスタッフなども、全てのブログサービスに存在するわけです。これ、少数の事業者に集約されていると、スタッフも少なくて済みますから、社会全体で負担する人的コストが随分と減らせるはずですよね。そうなってない現状は、社会全体で過剰なコストを負担していることになります。
一方、多数の選択肢があることのメリットも当然にあります。真っ先に思いつくのは独占の弊害。例えば検索エンジンは Google が事実上独占してしまっているので、近年は弊害の方が大きくなってきています。これは困りますよね。常に第2第3くらいの選択肢は残っている方が市場としては健全。
市場も一種の生態系ですので、多様であることは進化の可能性でもあります。ブログサービスはもうすっかり枯れ切っているような気がしてしまいますが、アイデアによる進化の可能性は常にあります。
また環境変化に対する破滅回避の可能性でもあります。なんらかの原因で主要なブログサービスが一斉に閉鎖したとしても、マイナーなサービスが一部に生き残っていれば、将来的にブログサービス市場が回復する可能性を残すことが出来ます。
ブログサービスはかなり枯れ切ったサービスではありますが、それでもサービスごとに特徴・特色があるものです。利用者にとってはその特性がこだわりであったなら、他のサービスがあっても選択肢にはなりませんね。多様であれば、多くの利用者にとってぴったりなサービスが見つかる可能性が高まることになります。これらがブログサービスが多様であることのメリットでしょうか。
ちょっと視点を変えて、リアルな市場のサービスを考えてみます。物凄い腕利きのシェフが経営する飲食店があったとします。凄腕なので、どんな顧客の好みにも対応できます。そんな素晴らしいシェフでも、1億2千万人に対して料理を提供するキャパシティはありません。また、もしも調理のキャパシティがあったとしても、北海道から沖縄までの1億2千万人が毎日シェフの店に通うことは現実的ではありません。つまり、リアルなサービスは供給量と地理的な制約を受けるわけですね。この制約を乗り越えるためには大規模な工場と、全国への配送網を構築しなければなりません。
一方、SaaSを始めとしたネットサービスです。まず供給量の問題はありません。そりゃ1億2千万人にサービスを提供するにはサーバがたくさん必要になりますが、工場を作るのに比べればタダみたいなものです。また、距離の制約もありません。データセンターに置いたサーバから、日本全国に対してサービスを提供可能です。つまり、SaaSには供給量も地理的な制約も事実上ないのです。
リアルなサービスは供給量と地理制約によって多数のサービス供給者が必要になるのですが、SaaSはその必要がない。であれば少数の事業者に集約されていくのが、社会全体にとって最適な状態なのではないだろうかというのがここで書きたかったことです。実際、多くの産業が黎明期の百花繚乱から、発展期成熟期には少数事業者に集約されていきますよね。SaaSも将来的にそうなるといいなと思うけれど、一方でネットサービスは参入障壁が異常に低いから、いつでも新規参入があって乱立状態が続く可能性もありますかね。
(2024/3/24追記)
デジタル化が進んだと思いきや、新たな手作業が生まれている今 ここから5年間、SaaSにおいて外部APIは重要なパーツになる
複数のSaaSを使い分けるのが大変であるから、各SaaSはAPIを提供するようになるのではないかというお話です。
私が考えていたのとは結論は違いますが、問題意識としては近しいところにあるのかなぁという気がします。こういうことを考える人が他にもいらっしゃったというのは心強いなと。今後、乱立SaaSに対する処方箋が次々と考えられていくことも期待できますね。
ただ、多くのSaaSがAPIを提供するようになると、今度は山盛りのAPIにどう対峙するかで書いたような問題が発生するかもしれません。とすると、結局は大統一SaaSが登場するのが一番なんですかねぇ。