更生しても認められないなら誰も更生しなくなるよね

2023/3/24作成

個別にリンクははりませんが、回転寿司などの飲食店でのいたずら動画が炎上しています。いたずらって言葉は行為を矮小化してるかもしれないので、営業妨害とか器物破損とかって言った方がいいですかね。窃盗を万引きと呼び変えてしまっちゃいけないと同様に。

こうした行為が問題なのは当然なのですが、気になるのは当事者に対して本名や住所、所属校などを特定して晒して叩く行為がネット上で横行していること。要するにネットリンチですね。ネット上のこうした情報はデジタルタトゥーとして未来永劫残り続けますので、彼らの人生は事実上崩壊してしまっています。今後、結婚も就職も無理でしょう。過ちは過ちですが、それは人生を棒に振るほどの過ちなのでしょうか。

こう書くと「犯罪者を擁護するのか」って脊髄反射されそうですが、そうではなくて。誰も無罪放免しろとは言ってません。犯罪は犯罪であって法律によって裁かれる必要がありますし、民事上の賠償も行われるべきです。ですが私刑を行って良い理由になりません。法治国家において私刑は禁じられています。従来ですとこうした事件では店舗側も泣き寝入りすることが多かったのですが、昨今の世論の変化もあって刑事・民事での責任追及を行っています。であれば法の裁きに任せておけばいいわけです。法の裁きがなかったとしても私刑を行っていい理由にはならないんですけどね。法の裁きがなかったということは、法が許したってことですから。そりゃま私だって悪人が裁きを受けずにのうのうとしてたら気分は悪いですよ。でもだからって自分が私刑に加担して良いとも思わないです。

この手の問題って、その他にもいくつかの論点があると思うんですよね。以下、それぞれ書きます。

まず第一は、これ行為者当人だけが叩かれてますが、他にもその場に居た人はいるんですよね。少なくとも撮影してSNSにアップしたのは別人のはずです。また、その場にいて「なんか面白いことをやれよ」って言った、もしくは無言で圧をかけた人ってのも多分居ると思うんですよ。

香川照之さんが銀座のクラブで性加害を行った事件がありましたね。あの時に元ホステスさんがコメントしてましたが、同席していた偉い人が居たはずだそうです。つまり、香川さんが一人でクラブに行って自身の欲求に従って性加害したのではなく、同席している偉い人にウケるために性加害に及んだと。私たちは何となくテレビで見る表に出る人を偉い人だと感じますが、実際の社会はそうではないんですよね。テレビで見る人も本当の偉い人の前ではウケを狙う小者に成り下がってしまう。

こういう構造のもとに事件が起こっているのだとすると、直接の行為者を罰したところでトカゲの尻尾きりでしかない。末端のウケを狙わなければいけないポジションの人が入れ替わるだけで、同じことはこれからも行われ続ける。つまり、末端の行為者を私刑で叩いたところで、問題は何も解決しないわけです。この問題を発生させる構造自体を解消しないと。

次に、私刑を行ってる人たちは、抑止効果をもって自分たちの行為を正当化しています。しかし、果たして抑止効果はあるのでしょうか。ケーキの切れない非行少年の話によると、一定数認知能力が著しく低い人が存在することが示されています。彼らは犯罪を犯せば罰せられるという因果関係すら理解できませんので、目の前の面白そうに見えることを実行するときに「これやったら犯罪になって処罰されるかもしれない」ということを想像することも出来ません。であれば抑止効果など期待できないことになります。全ての犯罪者がそうではないでしょうから抑止力がゼロというわけではないでしょうけれどね。もっとも、抑止力が期待できたとしても私刑をしていい理由にはなりません。

最後に、更生を妨げることの悪影響です。こう書くと両さんの「更生した奴より最初から非行に走らなかった奴の方が偉い」ってコマを貼ってドやる人が出るんだろうと思います。それ自体は正論だとは思いますが、だからって更生しても認められないなら、誰も更生しなくなっちゃいますよね。ていうか、元ヤクザとか元受刑者とかがまた犯罪の道に戻っていってしまう理由の何割かはこれですよね。元悪人だから社会に受け入れられない。受け入れてくれるのは悪の環境だけってことで。更生を妨げることで世間の犯罪者の減少を阻害しているわけで、私刑によって治安は悪化してるわけですね。人生崩壊した人は怖いものは何もないので無敵の人になります。無敵の人はどんな犯罪だってやります。むしろ社会に対する復讐心という犯罪の動機すら生れてますよね。

まあ、私も理想論を語ってるってのは分かってますよ。これってNIMBYみたいなもので、更生した人を社会が受け入れるべきだと思うけれども、だからって自分の隣人として迎え入れられるかというと正直自信はないわけでして。