参院選の投票があったというところで、いくつか選挙がらみのことを。と言っても特定の政党とか政策の話ではなくて、選挙システム自体の話です。
ここ数年、選挙の前になると「若者の投票率が低いから高齢者向けの政策になっている。若者も投票に行けば政治家が若者向けの政策を実施するようになる」という意見を見かけることが多くなりました。実際、若者の投票率は低いのでしょう。私は選挙管理委員会などの一次資料をチェックしたわけでは無くて、そうした言説に添付されてる資料を眺めただけなのでファクトチェックは行ってないのですが。
これ疑問なのは、果たして若者が投票に行ったら若者向けの政治が行われるんでしょうか。現状、若者が投票に行ってないのは事実でしょうが、もしも若者の投票率が100%になったら、若者向けの政治が行われるんでしょうか。可能性は低いですよね。なぜなら、日本は既に超高齢化社会に突入していて、若者よりも高齢者の方が人口が多いからです。若者が100%投票に行ったところで、高齢者層には数で勝てません。つまり、「若者が投票に行けば若者向けの政治が行われる」ってのは嘘なんですよ。結果的に投票に行く若者が増えるといういいことに結びつくなら嘘も方便って考え方もありますが、嘘ついてることには違いないですよね。そこはちゃんとはっきりさせておきたいと思います。
そもそも高齢者人口が多いから高齢者向けの政治になってるというのも眉唾だと思ってます。個々の政策を見てると、若者向けの政策だっていろいろある。高齢者を必ずしも優遇してるとも限らない。そりゃま完全な政治が行われてるとは思ってませんが、そこまで欠点だらけというわけでもない。何事もそうですが、単純に二つに割り切れるものでもありません。
私もそりゃ投票に行った方がいいとは思いますが、投票に行かせるために嘘をついていいとも思ってません。また、投票に行かなかった人間に政治に意見する権利が無いというのも間違っていると思います。選挙権はあくまでも権利ですから、行使するかどうかも含めて本人の自由に任されています。無知ゆえに行使しない人がいたら勿体ないので啓蒙は必要だと思いますが、投票に行かない奴は非国民みたいな一部のネット民の言説には同意できません。また、政治に参加する方法も選挙以外にもあります。こうしてネットで発言することだって政治参加の一種ですよね。私の場合は影響力ゼロなんですが。
もしもシルバー民主主義が本当に問題だというのなら、選挙権に定年制を設けるのはどうでしょう。そもそも選挙権を行使できるようになるのが18歳以上と年齢で区切られているわけです。上限だって年齢で区切ってもいいんじゃないですかね。人は年を取ったら衰えると言っても、その衰え方は人それぞれです。90歳を超えても壮年のように元気な人もいれば、60代で認知症になって寝たきりの人もいるでしょう。だから年齢で区切るのは不適切だってのも一理あるんですが、それを言えば18歳以上に選挙権を付与するのもおかしいってことになっちゃいます。個々人の能力を計って選挙権を付与するなんてのは現実的ではないので、年齢で一律に区切ってしまうのも一つの方法ではないかと。
高齢者になったら人権が制限されるのはどうかってのも問題ではありますが、人権一般と選挙権は少し区別してもいいような気もします。というのは、政治というのはどうしても10年20年と長期的な視点が求められるからです。言葉悪いですが、老い先短い高齢者にそこまで長期的な視点を求めることは一般的には難しい。未来のことは、未来の当事者に任せるというのも一つの方法でしょう。企業は労働者を年齢で区切って定年退職させるわけですから、選挙権の定年も一つの考え方だと思います。
もう一つ選挙について。国政選挙が終わると風物詩のように一票の格差訴訟が行われます。選挙区の人口を議席数で割った数が、地域によって差があるということですね。一票の重みに違いがあるのは憲法で定めた法の元の平等に反するのですが、一方で完全に格差をゼロにすることも難しい。
例えばある選挙区で人口が減ってきたから議席数を減らしましょうという話になったとします。その選挙区で前回の選挙で最下位当選した議員さんは、次回の選挙では落選する可能性が高いですよね。当人にとっては議員を続けられるかどうかの瀬戸際ですから、当然反対するでしょう。また、その議員の所属する政党や派閥にとっても自勢力の議席が一つ減ることになるから反対しますよね。一票の格差是正という総論に反対する人はそうそういないでしょうが、この選挙区の議席を減らしますという各論には反対の声が上がってしまう。まあ、人情として理解は出来ますね。どうかとは思いますが。定数削減が出来たところで、議員数というのは人口に比べると圧倒的に少ないので、どうしたって誤差は出てきます。なので判例でも2倍程度までの一票の格差は合憲としているわけですよね。
現状の一票の格差って地域ごとの差しか注目されていませんよね。地域ごとに代表を国政に送って、地域の声を反映させようというのはいいんですが、人口を区切る方法として住所地だけってのは果たして正しいのか。例えば先ほどの世代間問題を考えると、世代ごとに選挙区を区切るというのも一つの方法じゃないですかね。若者選挙区からは若者の意見を代表する議員を送る。高齢者選挙区からは高齢者の意見を代表する議員を送る。また、人口の区切り方は他にもありますよね。性別だってありますし、職業でも学歴でも可能でしょう。性別や職業差別だと思われるかもしれませんが、差別というのは属性によって特定の権利が制限されることを言うわけですから、区別されたそれぞれに平等に議席が配分されていれば差別ではないと思います。もしも差別だというのなら、今の住所地による選挙区割りは住所差別ということになりますし。まあ実際には職業や学歴は、個人をすっぱりと区別することが出来ないので、実現可能性は低いですけどね。複数の職業を兼ねてる人だっていますし。性別ですら、LGBTQの話を持ち出すと区別は容易ではありません。年齢は流石に区別可能ではないかと思いますが。
あと、一票の格差って世代補正をかけるとより顕著になるんじゃないかなぁって気がしました。大雑把には地方から都会に人が移り住むことに寄って一票の格差が起こります。都会より地方の方が票の価値が高くなるんですね。ここで考えたいのが、地方から都会に移住するのは主に若者だということです。つまり地方に住み続ける高齢者は一票の価値をより高め、都会に移住した若者は一票の価値がより減ってしまう。そういう構図じゃないかなと。選挙区割と地域ごとの人口構成データをかけ合わせれば簡単に計算できると思うので、気が向いたらやってみます。