「番地の謎(ISBN:978-4334787219)」という本を読みました。日本の住所がどういう仕組みになっているかを解説した本ですが、正直後半の細かい小字レベルの話になってくると一度通読しただけでは理解しきれていません。それくらい住所って難しいんだと言われればそれまでなんですが。また機会があったら再読して理解を深めたいと思います。
本書で筆者は住所の解説と共に、主に住居表示に対する批判も行っています。主な論点は、歴史的な小地名が失われることと、地域コミュニティが分断されることかと思います。これ、言われてみればなるほどなと思うんですが、一方で役人が無味乾燥な住居表示を実施した気持ちも分からないでもない。こうかくと「おまえは妖怪どっちもどっちか」って言われるかもしれませんね。まあ、否定しきれないところではあるんですが、いったん自分なりの考えを書いてみます。
要するにどういうことかというと、住所とひとくくりにして呼んでしまうけど、実は複数の役割があるんじゃないかと。それを一つの住所で賄おうとするところに無理があるんじゃないかってことです。
住所に求められる役割の一つは、筆者が「役人が地図を広げて云々」と言っている管理機能です。この場合、住所は理路整然とした構成になっていた方が望ましいのは間違いないです。国が音頭をとって地方ごとの事情など無視して全国一律の方針で住居表示を導入しようとしたのも、その方が行政事務がやりやすくなるからですね。
こういう天からの視点で見た場合の住所とは別に、地の視点からの住所もあります。代表的なのが道を歩いて宛て所を探す人。郵便配達や宅配の人が代表的ですね。こうした人は道を歩いて移動しますから、基準は道になるわけです。その点で街区方式は相性が悪いわけですね。
最後にあるのが地域コミュニティの単位。本書で指摘されているとおり、一つのアーケードを共有している商店街の向かいの店が違う地域コミュニティに分断されてしまうのは大変不便だろうなと思います。
住所と一言で言ってしまうと同じものだと感じてしまいますが、実際には人によって立場によって、そこに求める機能には違いがあるわけですね。だからって役割ごとに違う住所をふってしまうと大混乱になってしまうのですけどね。現状ですら、地番と住居表示があって混乱してるわけですから。
これどうしたらいいかというと、複数の視点に対して配慮しながら住所を整理していくしかないのかなぁという気がします。これまでの行政による住所整理は天の視点からだけでした。これはこれで必要ですし、行政でも民間でも業務を効率化したりIT化したりする際には現状の住所は複雑すぎますので整理された簡素なものにしていく必要があると思います。一方で、整理の際に天の視点だけではなく、地の視点も取り入れていくことでなんとか両立した住所になっていかないかなぁと期待するところですね。幸い、具体的にどうすれば両立した住所になるかという提言は本書にも書かれていることですし。