「萌え」はどこにいった

2021/8/30作成

そういえば最近「萌え」という単語をあまり聞かないなぁという気がしました。

こういう雑な意見をそのままSNSなどに放り投げるとマサカリがいっぱい飛んでくるのが今時の怖いインターネットなので、隠れたこの場で書くことにします。って誰に何の言い訳してるんだか。それにこの場もほとんどアクセスが無いってだけで、隠れた場所でもないしねぇ。まあ、コメント欄が無いから荒れることもないってメリットはあるんですけどね。

例によって冒頭から話がそれましたが、本題に戻りましょう。「萌え」って最近聞かなくなったと思いません?個人的な感覚としては、2010年代以降には聞くことが減ってきたように思います。

とりあえずGoogleトレンドで調べてみたところ、めっちゃ分かりやすいグラフが出てきました。2005年頃にピークがあって、以後は一貫して関心が低下しています。

Gooleトレンド(萌え)
Googleトレンド(萌え)

また、国立国会図書館サーチで「萌え」で検索した際の年別のヒット数はこちらの通り。2006年の151件が最大で、以後2012年の102件を最後に2桁が続いています。

国立国会図書館サーチ(萌え)
国立国会図書館サーチ(萌え)

2010年代以降は減ったなぁと雑に想像しましたが、想像以上に現実に符合していてちょっとびっくりです。

さて、萌えとは何でしょうか。起源は諸説あるものの、1990年代のネットスラングとして一部のオタクの間で使われるようになったというのはだいたい一致しているかと思います。その後、2000年代に入って電車男を筆頭にしたアキバ・オタクブームが登場した際に、「萌え」もオタク文化を象徴する単語として一気にオタク以外にも普及しました。

一時のブームほどではありませんが、その後もアキバ・オタク文化は定着しています。であれば「萌え」も一緒に使われていてもよさそうな気もしますがそうではない。これは個人的な予想ですが、もともと仲間内の隠語として使われていたのに、一般に普及したことによって隠語の意味をなさなくなって使われなくなったのかなという気がします。でもそうすると「萌え」に変わる新しい隠語が登場しそうなものですが、いまいち思いつきません。「尊い」とか近しいような気もしますが、「萌え」とは別の概念ですよねぇ。

そもそも「萌え」の定義もよくわからないんですよね。オタクであれば作品のタイトルをずらっと並べて、萌えるか萌えないかを仕分けることは容易だと思います。また、その仕訳の基準はその人独自ということはなく、多くのオタクで同じ結果になるものと思われます。それくらいオタクにとって「萌え」の概念は自明ですし、オタクの間で共有もされている。にも関わらず「萌え」を言語化することは難しい。かつて竹熊健太郎氏が萌えの言語化に挑戦しましたが、ロドリゲス奈々子という怪物を生み出しただけで失敗に終わってしまってます。この言語化が困難なことが、スラングから一般語への移行を阻害して、廃れてしまった要因の一つかなぁという気もします。

(2021/8/31追記)

アキバ・オタクブームで「萌え」が一般にも広がった際に意味が転化したことも、「萌え」が使われなくなった要因かなと思いました。

オタクの間で使われていた「萌え」って肯定の意味なんですよね。この作品はこんなに萌えて素晴らしいって。ところが一般に広がった時にオタクを象徴する単語として「萌え」が使われるようになりました。オタク文化の中の一単語が、オタク文化全体を代表する単語になったわけです。それだけでも意味が大幅に変わっているのですが、非オタクが「萌え」を使うときって「いい年した大人がこんな幼稚なものをありがたがってるのか情けないな」という侮蔑の意味が含まれるようになった気がします。こちらは、単に私の被害妄想かもしれませんが。なんせこちとらオタク差別時代を過ごしてきた老害オタクですから、いまだにトラウマあるわけですよ。

後半の侮蔑意味付けは私の被害妄想だったとしても、前半のオタク文化全体を表すというのは、もともとからの意味の乖離が激しいです。であればオタク同士の間でも使いにくい言葉となって、廃れていくのも当然かなぁという気もします。