「黒字でないと継続的に同人活動できない」とツイートを見かけました。これ自体は昔からよくある意見ですので、そのツイートへのリンクは特に張らないことにします。さて、ちょっとこの件について考えてみましょうか。
同人サークルの黒字問題ですが、そもそも同人サークルと言ってもいろいろあります。この問題についての論争のかみ合わないのは、事情の異なる同人サークルを混ぜて議論するからじゃないかなと思うので、まずそこを切り分けます。ざっくり、大手・中堅・零細の3種類の同人サークルに分けましょう。
大手というのはいわゆる壁サークルとかシャッター前とかいうところです。段ボール数十箱の新刊を搬入し、1回の即売会での売上は数百万以上にも及びます。
中堅は島から壁をいったりきたりくらいのサークル。新刊は数百部は刷りますし、即売会での売上も数十万円はいきます。固定のファンもついてますし、通販や委託書店でも即売会と同等に売り上げます。
最後に零細。島中ですね。コピー誌を10部作って初参加のサークルから、印刷しても数十部くらい。売り上げだってせいぜい数万円くらいです。知名度がないことと、そもそも同人活動にそこまで手間をかけていないことから、通販や委託はあまりしていなくて、即売会でしか出会えないことが多いです。即売会に参加してるサークルの大半はこの零細サークルに分類されます。私の参加してるサークルもここに属します。
次に黒字の定義です。黒字とは売上から経費を差し引いた額がプラスになることですね。このうち売上は分かりやすいです。頒布価格かける部数ですからね。あまり揺らぎが無い。一方、経費はどこまでを経費にするかで大きく変わります。まず考えられるのが印刷代。原価厨が許してくれる最低ラインの経費ですね。印刷代が1部あたり500円だったら500円で頒布しろ、1000円で頒布するなんて許せないと原価厨が叫ぶラインです。原価厨ですら認めてくれるわけですから、万人が経費として認められるでしょう。
サークル参加費や遠征の場合の交通費宿泊費を経費に含める考え方もあります。そうすると黒字ラインはぐっと上がってきますね。最後に算入されるのは、本を制作するときにかけた人件費。さらに言えば、絵や文章を書くためのスキルを習得するのにかかった教材費や時間コストも含める場合もあります。ここまでくると黒字になるサークルは相当に少なくなるでしょうか。
サークルの規模と経費について整理しましたので、いよいよ同人サークルの黒字問題について考えていきましょうか。
まず大手サークル。これは実は同人サークルと言いますが、実質的に同人専業の事業体となっています。節税対策で法人化してたりもします。言ってしまえばプロですね。お金のためにやってるとまで言ってしまうと目的は人それぞれではあるけれど、黒字でないと食っていけないという切実な問題があるのは確かです。昔、インディーズバンドと言えばプロへの登竜門でしたが、今はメジャーデビューせずにインディーズバンドのまま活動を続ける場合もあるそうです。ではその人たちはアマチュアかというとそんなことはなくて、音楽活動を専業にしているし、バンドの売上で食べていってる。大手サークルも構造的にはこのインディーズバンドと同じようなものだと言えるでしょう。大手サークルにとっては黒字であることは必須条件になります。だって食っていけませんからね。
次に中堅サークル。彼らは同人専業ではありません。本職は別にあって趣味として同人活動をしています。売上金額は確かにそこそこありますが、とても食べていけるだけの金額ではありません。一方で、印刷代などの経費も売上に比例して結構な額になってきます。印刷所に数十万円を前払いしないといけませんから、趣味で出せる金額の範疇は超えています。この作品が売れてくれないと次の新作の印刷代が出せませんというのは、比喩でも脅し文句でもなく、事実そうなんでしょう。ではお小遣いで出せる金額の部数にしておこうとすると、即売会では争奪戦になります。今どきですからSNSで売り惜しみで値を吊り上げたいのかなどと叩かれること必至です。売上というリターンはそれほどでもないのに、しがらみや批判は人一倍という意味では中堅サークルというのもなかなか辛いポジションですね。
最後に零細サークル。そもそも部数がせいぜい数十部ですから、印刷代も数万円程度。それにイベント参加費や交通費を足したとしても、所詮は趣味に出せる金額です。そりゃ黒字になったら嬉しいですが、そもそもサークルの規模が小さいですから、黒字になってもせいぜい数万円程度。サークルメンバーで打ち上げしたら終わり程度の金額でしかありません。だいたい世間一般にいって趣味というのは出費はあっても売上なんてあるものではありませんし、金銭的なリターンを第一目的にするならばそれはもう趣味でもないでしょう。零細サークルにとっては、本を作って即売会で頒布すること自体が趣味なので、そこに金銭的なリターンは基本的に求めていません。売上がゼロでも、次回作の印刷代は自分の小遣いから出せます。
では零細サークルはタダで頒布しろよと言われると、個人的にはタダでもいいかとも思うんですが、実際には経費程度のお金をいただいています。即売会ではタダで頒布してるサークルもないではないですが、全体からすると圧倒的に少数です。経験的にはタダだと頒布数が減るってのはあります。貰う側としてもタダだと恐縮してしまうという心理はあるのでしょうかね。また、ぶっちゃけた話として同調圧力と言いますか、他のほとんどのサークルがお金をとってるんだから、ではうちも取っておくかって心理もあります。正直、なんでお金取ってるのか突き詰めて考えたことなかったです。
ということで同人サークルの黒字問題は、大手では必須なもの。中堅サークルは黒字は必須ではなくても、赤字は最小限でないと同人活動が続けられない。零細サークルにとっては赤字でもなんの問題も無いというのが私の考える結論です。