担々味研究

2021/1/13作成
焼きさばごま味噌風味担々風
焼きさばごま味噌風味担々風

「焼きさば缶詰 ごま味噌風味担々風」です。これをスーパーの棚で見つけたとき、ひっくり返りそうになるくらい驚きました。ってのは少々大げさですが、実際かなり驚いたんです。だって「担々風」ですよ。つまり担々麺風味。担々麺は今は随分と広まりましたが、それが料理だけではなく味付けに昇華したんです。これはコペルニクス的転回といっていいんじゃないでしょうか。ってそれはちょっと大げさか。

料理から味付けへと昇華した先輩としては、なんといってもカレーがあります。カレー味、カレー風味というのは料理にしてもスナック菓子にしても、非常にポピュラーです。果たして担々麺はカレーに続いて味付けとして定着できるのでしょうかといったところをいろいろ調べてみたのがこの本になります。

担々麺の歴史

担々麺は元々は四川料理。19世紀頃に、天秤棒に担いで売り歩かれていたそうで、つまりはファーストフードの一種だったわけですね。担々麺の担はここから来ています。天秤棒では大量のスープを持ち歩くのは困難であることから、スープを使わずに提供する形態だったそうです。

この担々麺を日本向けにアレンジしたのは陳建民氏だそうです。「料理の鉄人」で活躍した陳建一氏のお父さんですね。陳建民氏が来日したのが1952年だそうなので、スープありの担々麺が考案されたのは1950年代から1960年代でしょうか。

日本式担々麺は陳建民氏が出演した「きょうの料理」でも紹介されたそうなのですが、この頃はまだ広く知られたメニューとまではいかなかったのではないかと、私は個人的に記憶しています。一部の中華料理店でメニューに載っている料理の一つという位置づけだったかと思います。

担々麺の普及度合いを示す資料がないかと探したのですが、なかなか見つかりません。2004年以降と比較的最近のデータしかありませんが、googleトレンドによる検索数の推移は以下の通りです。

googl trend 担々麺
https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&geo=JP&q=担々麺より

このグラフを見ると、2010年代に入ってからだんだん検索数が増えています。2017年に大きなピークがきていますが、基本的には右肩上がりと言えるでしょう。つまりそれだけ日本では担々麺が一般的になったわけです。例えば「食べログ」で担々麺を検索すると、なんと1793件もヒットします。

現在の日本では担々麺は専門店・ラーメン店・中華料理店で食べられるだけではなく、冷凍食品やカップ麺として家庭でも食べられますし、担々うどんなどのアレンジメニューを楽しむことも出来ます。四川料理時代への先祖帰りとも言える、汁なし担々麺も多くの店で食べられますね。

また、ご当地担々麺として、千葉県勝浦市の勝浦タンタンメン、神奈川県川崎市の川崎タンタンメン、神奈川県小田原市の小田原系タンタンメン、広島県の広島汁なし担々麺などがあるそうです。

担々麺味の広がり

担々麺の歴史で様々な担々麺をみてきました。しかしこれらはあくまでも料理としての担々麺とそのアレンジです。これだけ豊穣な広がりを見せる担々麺ですが、本書でみていきたいのは料理ではなく味付けだけを昇華させて他の料理や食品に適用されたものになります。

先に確認しておきたいのは、なにをもって担々麺味とするかの定義です。ですが調べてみたところ、担々麺そのものが味付けのバリエーションがありすぎます。唐辛子の辛みを使っているのはだいたい共通しているのですが、これもラー油を使う場合と豆板醤を使う場合に大きく分かれます。日本式の担々麺ではゴマベースの芝麻醤を使うことが多いですが、本場の四川料理に寄せた味付けの場合はもちろん使われません。肉そぼろと青菜が載っていることが多いですが、チャーシューが載っていることもあるそうです。

無理矢理共通項を取るとしたら唐辛子の辛みを使っていることくらいになってしまいますが、唐辛子味を持って担々麺味と言ってしまってはいくらなんでもヒドすぎますね。ということで、その食品が担々麺味を名乗っていればそれでOKという緩い基準にしておくことにします。

さて紹介するトップバッターは、私が遭遇して仰天した焼さばごま味噌風味(辛口)です。

製造は岩手県釜石市の津田商店、販売はキョクヨー。原材料は、さば、砂糖、みそ、発酵調味料、豆板醤、食用調合油、ねりごま、食塩、唐辛子、ガーリックパウダー、でん粉/香料、調味料(アミノ酸)となっています。

その他の担々味の商品としてはスナック菓子が多いです。まずは東ハトの「麻辣黒仙人」。2005年に発売されています。黒ごま坦々麺風味となっていますが、名称にもパッケージにも担々麺がありません。まだこの時代には担々麺にはそれ自体で訴求できるほどの知名度がなかったということでしょうか。

2014年にはハウス食品から「オー・ザック 担々麺味」が発売されています。こちらは商品名にもパッケージにも担々麺が明記されていますので、担々味であることが商品力として強みになると認識されていたのでしょう。

2019年には東ハトから「暴君ハバネロハバ麺 汁なし担々麺味」が発売されました。激辛スナックの暴君ハバネロのシリーズとして登場するのは、辛みが特徴である担々麺としては王道でしょうか。ただ、料理としてではなく味付けとして出るなら、汁なしであるかどうかはあまり関係がないような気もしますけれどね。

ご当地担々麺である勝浦タンタンメンも派生製品がいくつもあります。「勝浦タンタンメンマ」はなんと勝浦タンタンメン味のメンマ。「勝浦タンタンメンにのせて良し そのままご飯の友や酒の肴に」とありますが、勝浦タンタンメンに勝浦タンタンメン味のメンマをのせていいものでしょうか。味はケンカしないでしょうけれども。ごはんにのせるのは美味しそうですね。 「勝浦タンタンメンチップス」はスナック菓子としては王道のポテトチップス。むしろこれ以外になぜ無いのか不思議なくらいですが。「勝浦タンタンメンピーナツ揚」もあります。勝浦タンタンメンの展開は凄いですね。最後の紹介しますのは「亀田の柿の種 勝浦タンタンメン風味」。亀田の柿の種はご当地の味をシリーズ化して展開しているのですが、その一つとして勝浦タンタンメンもありました。

料理から味付けへの昇華

ここまで担々麺の料理から味付けへの昇華についてみてきましたが、この道筋の先鞭はなんといってもカレーでしょう。もともとはインド料理であったカレーはカレーライスとして日本に料理として定着し、今ではカレー味というのが料理からスナック菓子まで幅広い範囲で親しまれています。

店のメニューや食品として提供されているだけではなく、カレー粉を使えば家庭料理でも幅広いバリエーションが可能です。日本中のあちこちに家庭オリジナルのカレー味のお袋の味が存在するのではないでしょうか。そういう意味では、担々味が今後さらに味付けへとステップアップするには、担々味のパウダーやチューブなど、手軽に家庭料理に味付け出来るような調味料が登場することではないかと思います。

さて、カレーが切り開き担々味が続いたこの道ですが、他にはないでしょうか。しばらく考えて思い出したのはタコス味です。それほど幅広くではありませんが、スナック菓子では定番ですよね。

その他にありそうなのとしては麻婆豆腐味でしょうか。残念ながら今回調べた範囲では麻婆豆腐味の食品というのは見つけることができなかったんですが、スナック菓子などでは十分に成り立ちそうな気がします。

こうしてみると、カレーにしても担々麺にしてもタコスにしても麻婆豆腐にしても、辛みが強いという特徴がありますね。料理は味付け以外にも様々な要素から構成されるわけですが、そこから味付けだけを取り出して他の食品に適用して、それでもなおかつ元の料理をイメージさせるということは、それだけ強い味付けが必要になるのかもしれません。