なんとなく正規雇用と非正規雇用についてちょっと思ったことを殴り書き。
まあそもそも”正規”、”非正規”という言葉についてもちょっと思うところがあるんだけどね。非正規だってちゃんと働いているんだし、なんか失礼な言葉ではないかと。これは言葉狩りとかというより、意味が適切ではない例ではないかと。適切な言い換え語があるといいんだけど、よく分からないのでとりあえずこのエントリでも仕方なく使いますけど。
正規雇用と非正規雇用とでどっちがいいですかと問われたら、まあ大抵の人は正規雇用がいいですと答えますよね。実際、新卒学生は数少ない正規雇用枠に殺到するわけですし。それ自体は別に悪いことだとは思いません。現実問題、正規雇用と非正規雇用では経済的に大きな差がありますから、それを希望するのは人間として当然のことだと思います。
多くの人が希望するということで、政府も正規雇用を増やすことを後押ししてたりします。様々な雇用規制を設けて、企業が正規雇用を増やすようにしています。例えば非正規で3年雇ったら正規雇用の打診をしなければならないとか。この法律を決めた役人と政治家に悪意はなかっただろうとは思うんだけど、でも結果として何が起こっているかというと、2年11ヶ月で契約を切られて首になる人が続出したわけですよね。日雇い派遣が原則禁止になりましたが、これも日雇い派遣で働いていた人が正規雇用されるようになったかというとそんなことはなくて、単にそういう人が無職に追いやられただけです。
正規雇用と非正規雇用だと正規雇用の方がいいという人が多いだろうけれど、非正規雇用と無職では非正規雇用の方がマシだと思う人はもっと多いと思うんです。しかし、この法律は非正規雇用を正規雇用にするのではなく、非正規雇用を無職にするように作用してしまっている。まあ、失敗だったと分かればまた法律をよりよく改正していけばいいので、それでもいいんですけどね。ただ、現状としてはそうなってしまっていると。
非正規雇用よりも正規雇用を志望する人が多く居ることから、政治もそういう方向になる。それは民主主義として正しいことではある。ただ現実問題としてそもそも企業はもう正規雇用を増やす方向には向いていないということは認識した方がいいと思う。大企業も中小企業も零細企業も、もう正規雇用を増やすことは考えていない。経営の根幹に関わるコア業務のためのみに少数を正規雇用し、その他の周辺業務については非正規雇用で賄うということが完全に一般化している。そういう体制にすることによって、経営環境の変化に対してすばやく社内体制を変えられるように備えているわけだ。まあ昔からある大企業などではバブル期採用社員などをまだ抱えていて苦しんでいるところもあるけれど、そういう会社も今は一生懸命希望退職を募ったりして前述の体制に移行できるように努力している。
つまりどういうことかというと、正規雇用の需要は多くても、それを満たすほどの労働市場における需要はもう存在しないということなわけだ。当然椅子取りゲームが熾烈になって、その結果ブラック企業が跋扈する一因になったりする。いや、もちろんだからってブラック企業を正当化するつもりなんて欠片も無いわけだけど。
多くの人がなぜ非正規雇用ではなく正規雇用を志望するかというと、そこに経済的に大きな格差があるからですよね。そもそも給料が違いますし、安定度も違います。非正規雇用になると人生負け組みだと思わされたりする。だから正規雇用を志望するのは当然でもあるんだけど、一方でさっきも書いたとおり企業は正規雇用を減らすことはあっても増やすことはありえない。つまり、非正規雇用が普通になるという前提でものを考えないといけないということではないかと思うんですよ。まあ、共産革命を起こして全企業を国営化して全国民を公務員にすれば解決しますが、それがどういう末路をたどるかは20世紀に東側諸国で壮大な実験が失敗に終わってますよね。なので、これは論外ということで。
そもそもなんで多くの人が正規雇用を志望するかというと、非正規雇用との間に大きな格差があるからです。逆に言えば、この格差が小さくなれば非正規雇用でも別に構わないという人も増えるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。だから、政策としては正規雇用を増やす方向ではなく、非正規雇用の待遇を改善する方向にするのがいいのではないだろうか。
正規雇用と非正規雇用の格差の大きな点は二つ。給与の多寡と雇用の安定性。給与については、実は企業にとって多く払うことはそれほど苦痛ではなかったりする。そりゃ支払うものは少ない方がいいのは事実だけど、労働者に支払う給与というのは費用の中では大きな比率ではなかったりする。どこにお金が掛かってるかというと、その人の雇用を維持するための間接費用。一般に、社員を雇うと給料の3倍の費用が掛かると言われていますよね。企業としては、そちらの費用の方が大きいわけです。もう一つは正規雇用だと容易に解雇できないという解雇規制の厳しさという点。一度正規雇用で雇うと今後数十年の費用を見込まなければいけない正規雇用は大きな負担なわけです。そういう意味では実は仕事のあるときだけ雇えばいい非正規雇用というのは、企業にとって実に都合のいいシステムなのですね。そういう都合のいい存在なのだから、その分少し給与を増やすということは、実はそんなに難しいことではないと思うわけです。実際には、世間的に非正規雇用=安価な労働力ということで給与も絞られていますけれど、ここんところが改革できれば大きな前進ではないかなぁと。
あともう一つは雇用の安定性。正規雇用は安定しているけど、非正規雇用は不安定。一度失職すると次の仕事がなかなか見つからなかったりする。これも、非正規雇用が実は企業にとって都合のいい存在であるのなら、非正規雇用の市場をもっと拡大・充実させれば、次の仕事がすぐに見つかるようになって、実質的に安定できるようになるのではないだろうか。
そして、給与と安定が手に入るのであれば、今ほど多くの人が正規雇用を志望することもなくなるのではないだろうか。つまり、労働市場における需給ギャップが解消するのではないだろうか。
非正規雇用は企業にとっては都合がいい存在であることは既に書きました。労働者にとっても都合のいい状態になれば、これは企業と労働者のwin-win関係にもっていけるのではないだろうか。というか、そういう風にもっていかなければならないのではないだろうか。正規雇用を増やすというのは時代に逆行する非現実的な話でしかないのだから。