先日2回目の住民投票が行われた大阪都構想について、今更ながらですが自分なりの考えを整理してみたいと思います。なお、例によってですがろくに調べもせずに思いつきと知ったかぶりの知識を書き散らしています。これが私の最終結論というわけではなく、これから調べたり考えたりしていくにあたっての現時点での自分の知識と考えの整理といったところです。
一応私の立場を表明しておくと、大阪都構想自体には賛成出来る部分もあるけれど、どちらかというと道州制を推進するのがよいのではないかと現時点では考えています。大阪維新の会については特に支持も不支持もしていません。
まず日本の自治体について整理します。大きくは47都道府県があり、その下に基礎自治体としての市区町村があります。さらにその中に区分として町、大字、小字などがありますが、これらは自治体としての機能は持っていませんので、ここでは省きます。
大きくは2階層なのですが、話を少々ややこしくしているのは政令指定都市の存在。今回大阪都構想の対象となった大阪市も政令指定都市ですね。政令指定都市は現在は全国で20あります。
政令指定都市は都道府県に近しいだけの権限と財源を持っていると言われます。つまり、都道府県の中に都道府県に等しい自治体が内包されているという矛盾。都構想が突いているのは、この矛盾だというのが私の現時点での理解です。
一般に、その県の中核都市が政令指定都市になろうとすると、県はいやがります。なぜかというと、これまで県が持っていた財源と権限の一部が政令指定都市に移ってしまうから。こう書くと政治家と役人の権限争いの話のようにも見えますが、それだけではありません。県の枠内で考えると、中核都市であげた税収で辺境部への投資を行うという、富の再分配をおこなっているという面もあるのです。日本全体では、東京であがった税収を地方へ再分配するのと構図としては同じですね。中核都市としては、自分たちが稼いだ金を辺境にばらまかずに自分たちで使いたい。県としては、中核都市に抜けられると辺境の維持が出来なくなるので困る。という利害対立が起こるわけです。
さて、大阪都構想です。大阪都構想では、大阪市と大阪府を解体して大阪都を作り、新たに複数の特別区を設置します。これは先行例として東京都があります。かつては東京府と東京市がありましたが、これが合体して東京都となり、特別区が作られました。
私は現時点で東京都の特別区の一つに住んでいるのですが、そこでの実感として特別区というのは市とたいして変わらないなという気がしています。区長や区議は選挙で選ばれますし、区で独自の財源を持ち区政を実施しています。実際、市区町村と言われています通り、特別区も市町村と変わらない基礎自治体であるというのは間違いないでしょう。
大阪都構想では、大阪府と大阪市の2重行政の解消をうたっていますが、これは私は眉唾ものだと思っています。なぜなら基礎自治体である大阪市を解体しても、新たに特別区という基礎自治体を設置するからです。2重行政はどうしたって起こりますし、実際47都道府県の全てで2階層の自治体構成になっている以上、2重行政は解消できません。
では特別区を作らずに大阪都庁を基礎自治体にすればいいかというと、それは無理でしょう。基礎自治体の大きな仕事は細やかな住民サービスです。戸籍や住民票の管理、ゴミ収集など住民サービスは多岐に渡ります。これらの住民サービスを適切に実施するには、基礎自治体の適正な規模というのがあります。人口ではおそらく数十万人が限度であって、実際にほぼ全ての基礎自治体はこの規模に収まっています。人口50万人を越える政令指定都市は行政区を作って住民サービスを区分して担当しています。大阪都となると人口は約900万人。大阪市部分だけを大阪都が直接面倒をみるとしても人口300万人。どうみても基礎自治体としての適正規模を越えています。
では大阪都構想が全くの無意味なものかというと、そういうわけでもありません。そこで登場するのが、大阪市が政令指定都市であるという事実です。政令指定都市は都道府県並の権限を持っていますので、大阪府の中にもう一つ大阪府があるような状態です。それは確かに2重行政になってしまっていますね。その問題は大阪府と大阪市だけではなく、全ての政令指定都市に共通しているわけですが。
つまり、大阪都構想というけれど、実体としては何かというと大阪市を政令指定都市ではなくすということではないかと。中核都市が政令指定都市になろうとするのと逆のことですね。これが現時点での私の都構想に対する理解です。
そう考えると対立の論点も見えてきます。大阪市の立場からすると、今まで持っていた利権を失うわけですから損をするわけです。大阪市以外の大阪府民からすると、大阪市の持っていた大きな財源と権限が大阪府全体に行き渡るようになるので得をするわけです。だからといって大阪市民が都構想に反対で、大阪市民以外が賛成という単純な構図ではないでしょうが、それぞれの損得で言えばそういうことかなと思います。
最初に書いたとおり、政令指定都市は県の中に県を作るという矛盾がありますので無理があるなと私は考えています。なので政令指定都市を解体するという都構想には賛成する部分もあるのですが、個人的にはその先に道州制を見据えると都構想はむしろ道州制の妨げになるのではないかと思うので、全体としては都構想には反対で道州制に賛成するところです。都構想の提唱者である橋下徹氏は確か政治家に転身した直後は道州制もとなえていたと思うのですが、今は道州制にはあまり言及していないようです。おそらくは、都構想と道州制の相性の悪さから取り下げたのではないかなと想像します。以下、どのように相性が悪いのか説明します。
都道府県は現在47あるのですが、これが適切な分割数であるのかどうかというのがそもそもの疑問点です。廃藩置県の時は300以上あった府県が統合を繰り返して47まで減ったのですが、まだ多すぎるのではないかってことですね。都道府県は広域自治体ですから、基礎自治体の担う住民サービスではなく地域全体のことを考えなければなりません。かつての時代はともかく、交通もITも発達した現代は、もっと大きな範囲で地域を区切っても構わないのではないかというわけですね。
都道府県は重なり合うわけではありませんから2重行政にはならないのですが、2重行政に近しいことは起こります。隣の県に空港が出来たのに我が県に空港がないのはけしからんから空港を作るとかですね。新幹線を新たに建設するとき、1県1駅の原則が発生したりも似たようなものです。本来なら需要に基づいて設置されるべき空港や駅が、県のメンツの為に設置されてしまってるわけです。
また、地方の発展を考えるとき、県単位というのは規模が小さいというのもそもそもとしてあると思います。近畿地方全体の発展を考える自治体というのは現時点では存在しません。大阪府、京都府、兵庫県などがそれぞれの府県ごとの発展に尽くすのみです。そりゃ近隣の府県で無駄がないように調整しあうのが理想ですが、現実としてそのような自治体が存在しない中で府県同士の調整がうまくいくことは期待できないでしょう。
ということから、都道府県をまとめて道州に移行しようというのが道州制です。かつては適切な分割であった47都道府県が現代では不適切であるために統合するのは理にかなっていると個人的には思います。
とはいえ、道州制もそう簡単に導入できるわけでもないでしょう。県民性という言葉があるとおり、住民は意外と県単位で一体感をもっています。47都道府県の歴史はせいぜい100年でしかないのですが、実際には都道府県の多くはかつての律令国と重なります。律令国は1000年以上の歴史がありますから、その歴史で培われた県民性はそう簡単には解体できないでしょう。そもそも律令国自体が地理的な近さや往来の多さなど、結びつきを元にして区切られたわけですしね。ということで道州制は理想だとしても、実際には導入には非常な困難が待ち受けていると予想されます。
さて、最後に都構想と道州制の相性の悪さについてです。大阪都を実現したうえで道州制を導入したらなにが起こるか。それは大阪が消滅するということなんです。
大阪都が実現すると、大阪市は消滅しますが大阪都があります。大阪という自治体は大阪都に引き継がれるわけですね。しかし、道州制が導入されて近畿道が出来たとしたら、近畿道という広域自治体の下にかつて大阪市に属していた特別区が基礎自治体として配置されることになります。特別区はそれぞれ特別区内のことを考えますから、大阪全体のことを考えるわけではありません。近畿道は近畿全体のことを考えますから、やはり大阪のことだけを考えるわけではありません。つまり、大阪という自治体は日本からなくなってしまうわけです。これは大阪市民としても大阪府民としても望むことではないと思います。
ちなみに、同じことは東京都にも言えます。もしも関東道が導入されたとしたら、関東道の直下に23区が直接配置され、東京という自治体は存在しなくなってしまいます。だからおそらくですが東京都の立場は道州制には反対ではないかと思います。もしくは関東道から東京だけは独立させた特別な自治体とするか。アメリカのワシントンD.C.とかはそんな感じですよね
そもそも東京という自治体も不思議な自治体ではあるんですけどね。日本の首都は東京ですが、では東京都が首都かというとちょっと微妙。実体としては23区を合わせたかつて東京市であったあたりが大体の首都だろうという認識だとは思いますが、自治体として明確に存在するわけではない。東京都庁所在地も、現在の都庁が新宿区に所在しますから便宜上新宿区という扱いになりますが、では新宿区が東京都で一番の自治体かというとそうでもない。実際、都庁は千代田区から1991年に移転してますが、そこで都庁所在地変更といった大きな手続きがあったわけでもない。
ということで、大阪都構想と道州制は両立しにくい性格を持っています。大阪都構想は大阪市という政令指定都市を解体するものだと言いましたが、道州制は大阪府を解体するものとも言えますかね。個人的には道州制の導入によって都道府県単位の対立を解消した方がより良いと考えますので、道州制に賛成です。そして大阪都構想はそれ単体は評価する部分もありますが、道州制との相性の悪さから反対という意見です。