ここ数年、機材の高性能化と低価格化のおかげでVRがちょっとしたブームになってますよね。 個人的には20年くらい前のVRブームの時に仕事でちょこっと関わってたことがあるので非常に懐かしいという思いと、ようやくここまで普及してきたのかという思いで感慨深いものを感じていたりします。
そんな個人的な思いはともかくVR。 さまざまな可能性を秘めているVRですが、とにかく普及しなければ話にならない。 普及のためのキラーコンテンツとしてはエロというのは昔から言われていて、それも効果はあるとは思いますが、個人的にはカラオケがいいんじゃないかと思ってます。
カラオケって、歌ってる時は歌の世界に没入するじゃないですか。 音に関しては完全に曲に支配されますし、視覚にしてもカラオケボックスなどは照明を落とし気味にして視覚は制限されるようになっていてそれだけ曲に集中できるようにしていることが多いです。 ならばVRで完全に視界も奪ってしまえば、歌の世界に入り込めていいのではないかということです。
ただ、カラオケの場合は別のところに問題があります。 それは一緒にカラオケに行ってる人をどうするか。 VRは言うまでもありませんが個人用の装置です。 VRのHMDをかぶって歌ってる人は没入できていいですが、他の人はその間ぼーっとただ見てるしか出来ない。 これはVRでない通常のカラオケの場合でも問題になりやすい点ではあるんですけどね。 他の人が歌ってる間、手拍子したりタンバリン叩いたりして一緒に楽しむという方法もありますが、大抵は飲み物飲んでたり次の曲を選んでたりただしゃべってたりとかして過ごすことも多い。 VRカラオケの場合は、それがさらに強調されるわけですね。
というところで思ったのが、ただのカラオケではなく一人カラオケならいいんじゃないだろうかということ。 最近は上述のようなグループでのカラオケの問題点もあり、一人カラオケがかなり普及してきています。 以前は一人客を敬遠していたカラオケボックスも最近では専用プランを用意して歓迎してたりしますし、なかには一人カラオケ専用のカラオケボックスもあったりしますよね。
VRカラオケの場合は他の客を置いてけぼりにすることが問題ですが、そもそも他の客が居ない一人っきりでのカラオケが前提になるVRカラオケなら大丈夫です。 一人で曲の世界にどっぷり没入しても、だれもナンの文句も言いません。 最初からだれも文句言ってないんですけどね。 文句というと語弊があるなら、気兼ねと言い換えましょうかね。 一人カラオケならVRで曲の世界に没入してもナンの気兼ねもありません。
という例によって非常に長い前置きですが、VR一人カラオケってのはいいんじゃないかという仮説を検証するために実際にVRカラオケにいってきました。 具体的にはカラオケファンタジーというお店のFantasy VR Stage+というサービスです。
1時間3000円という料金はカラオケとしてはちょっとというかかなり高価ですが、VRの機材のことを考えると妥当なところではあります。 もっと低価格化が進んで気軽に楽しめるようになるといいですね。
部屋に案内していただいて、まず最初にスタッフの方からシステムの説明を受けます。 メガネは外すようにと言われたのですが、強度の近視である私はメガネ無しではほとんど何も見えないので強引にメガネの上からHMDをかぶりました。 私の場合はなんとか入りましたが、メガネによっては入らないかもしれないのでコンタクトレンズをお持ちの方は用意しておいた方がいいと思います。
以前、別のVRゲーセンでプレイした際にはゴーグルが顔に当たる部分に使い捨てのシートを付けていました。 衛生面を考えるとシートが合った方がいいとは思いますが、この店舗ではシートはありませんでした。 ウェットティッシュとかを持っていって使用前と使用後に拭くといいかもしれません。 もちろん店舗でも使用後に消毒を行っているとは思いますので、気分の問題ですけれども。
そしていよいよVRカラオケを開始です。 もちろん一人で行ってます。 外から見たら、いい年したおっさんが一人でHMDかぶってカラオケしてるんですから、かなりシュールな気がしますが、VRのコツは外聞をかなぐり捨てて楽しむことですので、その点は気にしないにこしたことはありません。
やってみてわかったのは、一人でVRカラオケはかなり無理があるということ。 カラオケの機械自体は通常と同じですから、HMDを外してデンモク(JOYSOUNDですのでデンモクではないのですが通称で)を操作して選曲します。 選曲が終わったら慌ててHMDをかぶります。 なんせ一人カラオケですから、他の人が歌ってる間に選曲なんて出来ません。 自分が選曲したら即座に演奏が始まるわけです。 この点、選曲してから演奏が始まるまで少しタイムラグがあるといいなぁとは思いました。
カラオケボックスでの残り10分のインターホン対応も自分です。 インターホンが鳴ったら急いでHMDを外して対応しなければなりません。 このときばかりは一人カラオケではなく、他の人と来ていれば代わりに対応してもらえたのになぁと思いました。
HMDをかぶると、当たり前ですが視界は全部VRです。 周囲は全く見えなくなります。 盲点だったのはマイクがどこにあるかわからないこと(笑)。 考えてみれば当たり前ですがね。 実際にはマイクにも位置センサーがつけられていて、VR空間内にマイクが表示されるようになっています。 ですが、その表示位置がそこまで精度が高くないため手を伸ばしても空を掴むのみ。 結局、手探りでなんとかマイクを掴むことに成功しました。
マイクを掴んでもまた次の難点があります。 マイクのスイッチがどこにあるかわからない(笑)。 普通のマイクなら手探りでもスイッチは探せますが、前述のセンサーが邪魔をして手探りが難しい。 これもなんとか手探りでスイッチを探し出しましたけど。 いずれも慣れればなんてことはないのですが、最初はかなりとまどいました。
歌っている間は、画面に出てくるアイコンを注視することで様々なコマンドを実行することが出来ます。 VRの視界には満員の観客がサイリウムを振っているのですが、その観客の盛り上がりをコントロールしたり、紙吹雪などの演出を行ったり出来ます。 それはいいのですが、この視線を送るのが実際にはなかなか難しい。
一つは視線がなかなか合わないこと。 画面中に照準が表示されるわけでもないので、自分としてはアイコンを中心に見ているつもりでも、VR機材としては中心から外れていると判断されることが多々ありました。 視線を上下左右に動かしてアイコンが反応するポイントをひたすら探すことになります。
もう一つは、歌いながら視線を視線を移動させるのは意外と難しいということです。 視線というか、VRのHMDなので実際には首を移動させて視線をアイコンに合わせるわけですけれども。 歌ってる間は歌詞に集中しているので他のことをしている余裕がありません。 これは私がカラオケが下手なためであって、上手な人なら問題なく行えるのかもしれません。
VRカラオケシステムの説明を長々としてきましたが、ようやくVRカラオケ自体の感想を。 正直なところとしてはちょっと微妙。 やる前はもっと没入できて夢のような体験が出来ると期待していたのですが、そこまでではありませんでした。 事前の期待が大きすぎたとも言えるのですが。
VRですので視界は完全に奪われて没入出来ます。 音声はカラオケですからもとから没入してます。 でもいまいちVRカラオケの世界に入り込みきれなかったのは、多分心のオカンが邪魔をしたんではないかと思います。 心のオカンはカラオケに限らず、VR全般にとって大きな問題ですね。
心のオカンについて説明を。 要するに没入してるときに、他の誰が突然やってきて見られたらどうしようという心配のことです。 子供の頃、自室でこもって作業(なにをとは聞いてはいけない)をしていたところ、ノックもせずに突然オカンが扉を開けて入ってきて慌てたという経験は誰しも一度や二度はあることだと思います。 実際にそういう経験が無くても、いつオカンが入ってくるかとひやひやして過ごしていたという経験はあるかと思います。 心のオカンとは、つまりはそういうことです。 誰かが突然入ってくるかもしれない警戒心。 これがあることによってVRカラオケの世界に没入することが妨げられてしまったのです。
心のオカン問題はVRカラオケ独特の話ではなく、VR全般の問題です。 ただ、VR全般では心のオカンをそれほど大きく取り上げているというのはあまり聞きません。 今回のVRカラオケで心のオカンが問題になったのは、もしかしたらカラオケボックスのお店や部屋の特有の事情だったかもしれません。 ですので、なんらかの工夫によって心のオカンを封じ込めることは出来そうですね。
そして、心のオカンは何よりも自分自身の心が生み出しているものです。 要するに「気にしない」ことで克服できるものです。 羞恥心を捨ててVRカラオケの世界に没入することが出来れば、相当に楽しいものになるだろうなという予感は十分に感じることはできました。 VRカラオケはやっぱり一人カラオケとの相性が抜群だと思いますので、一般のカラオケボックスよりは一人カラオケ専門店にこそ設置されるべきではないかと思います。
最後にもう一つシステムに対する要望を。 一人で1時間だったので10曲近く歌ったわけですが、そうすると光景に飽きます。 VRで見える景色は大観衆のみです。 前述のアイコンで観衆の盛り上がりをコントロールは出来ますが、それでもずっと同じ光景だと少々飽きがきました。 せっかくVRなので、もっとたくさんの光景を用意できたらいいのになと思いました。 たとえば夕日の見える浜辺で歌えるとか。 青春ドラマの主題歌を熱唱したくなりますよね。 山の上とか空を飛びながらとか、いっそ宇宙空間とか。 ワープ空間で歌うとかも面白そう。 そういう光景の選択肢があると面白いんじゃないかなぁと思いました。