クラウドソーシングサービスをいくつか調べていてちょっと疑問に思ったことと、そっからの考察をメモ。
クラウドというとクラウドコンピューティングをすぐに思い浮かべますが、そちらのクラウドはcloud=雲。それに対してクラウドソーシングのクラウドはcrowd=群衆。意味が全然違います。
通常のアウトソーシングであれば、委託した業務を特定少数の担当者がこなします。一方、クラウドソーシングでは群衆ですから、不特定多数の人がちょっとずつ分担してよってたかって処理するということになるかと思います。私の好きな集合知的なイメージに近いですね。
なんですが、実際のクラウドソーシングサービスをみてみると、こうした不特定多数に依頼する業務だけではなく、特定少数に依頼するアウトソーシング案件も扱われています。つまり、実質的にはクラウドソーシング+アウトソーシングのサービスってことになりますね。それを非難したいわけではなく、違うものが一つのサービスの中に同梱されているんだなぁということに気付いたので、その点をメモが一つ。
ちなみにですが、アウトソーシングのマッチングサービスは目新しいものではありません。ビジネスマッチングサービスはずっと以前からありまして、それと基本的には変わりません。ただ、クラウドソーシングサービスの場合はエスクローなどの仕組みを導入していて、依頼者・作業者双方に対してそれぞれの信頼を補う工夫がなされているのが旧来のビジネスマッチングサービスとの違いかなと思います。
アウトソーシングの肝はお互いの信用だと思います。発注者にとっては依頼した仕事を完遂してくれるかどうかが大事ですし、受注者としては対価を支払ってくれるかどうかが心配です。前者は評価制度などで補えますし、後者はエスクローがあるわけですね。これにより旧来のビジネスマッチングサービスよりはかなり改善されましたが、それでも初回から完全な信頼が得られるわけではありません。最初は比較的小さくて簡単な仕事を依頼して、徐々に高度で複雑な業務を依頼するというような流れは変わらないでしょう。
そうして信頼のおける取引相手を見つけられたらそれは幸せなのですが、問題がなくはありません。それは業務の継続性です。定期的な収入が得たい作業者なら継続して発注して欲しいでしょうけれど、いつも一定の業務が発生するとは限りません。常に業務が発生することが分かっていればそのためのスタッフを雇用して内部で処理するでしょう。不定期に発生するから外部に委託するわけです。
逆に、発注者としては発注したい時に常に対応してもらえるかどうかという問題もあります。作業者は他から請けた仕事で手いっぱいで今は無理かもしれませんし、それ以外の事情でそもそも仕事を請けていないかもしれません。
クラウドソーシングではこれらの問題が解決できます。不特定の人が対応しますので、同じ発注者から常に同じ業務が発注されなくても構わない。また、受注者も常に待機していなくても構わない。多くの事業者が発注する業務をひとまとめにして、多くの作業者が群衆として作業することによって平滑化が行われる。
また、信用という問題もある程度解決します。特定の発注者が支払いを行わないとしても、他の発注者がきちんと支払うのであれば傷は小さくて済みます。一部の作業者がいい加減な仕事をしても、他の作業者がきちんと仕事をしていれば業務全体としての品質はそれなりに保つことが出来るでしょう。
ただ、クラウドソーシングは万能ではありません。重要な問題として、秘密保持があります。発注する業務は当然に企業にとっては機密情報ですから、外部に漏れることは問題です。特定少数に依頼するアウトソーシングであれば情報コントロールも可能ですが、不特定多数に対するクラウドソーシングではコントロールは不可能です。必然的に、漏れても問題のないような業務に限られることになります。ただ、ここは工夫が可能なところかなとは思います。一つにまとまっていると機密情報でも、バラバラに分解することで個々の断片からは全体が推測できなくすることが出来ます。例えばreCAPTCHAではスキャンした文書の断片を表示しますが、そこから元の文書を推測することは不可能でしょう。名刺のデータ入力を行う際、誰から誰への名刺かが分かれば機密情報の漏えいになってしまいますが、誰へを伏せても名刺の束を見れば推測できる情報もあります。しかし、1枚ずつの名刺を別々の作業者に依頼すれば機密は漏れていないとできるでしょう。
また、クラウドソーシングでは扱える業務が限られるという問題もあります。全体で1万行になるプログラム開発を100行ずつ分割して発注なんてことはあり得ません。分割して作業が可能な業務に限られることになります。結果的に、データ入力などの比較的軽微な作業に限られることにはなるでしょうか。このことは必然的に作業料も低く抑えられることになり、結果的に作業者は十分な収入が得られないということになってしまいます。おそらくですが、クラウドソーシングだけで生計をたてていくというのは、今後も相当に難しいと思います。クラウドソーシングサービス業者ではそこで生計を立てられるようにと仰いますが、それは主にアウトソーシングをこなしている方の話で、クラウドソーシング専業ではないでしょう。
ではクラウドソーシングはワーキングプアを生み出す貧困ビジネスなのかというと、それもちょっと違うと思います。クラウドソーシングはデジタル内職とも呼ばれているそうですが、従来の内職はそれでもアウトソーシングの範疇に近い仕組みでした。それに対してクラウドソーシングは発注者にとっても作業者にとっても時間軸の自由度が圧倒的に高いという特徴があります。発注者にとっては必要なときに必要なだけの業務を委託することが出来る。作業者にとっては、自分が作業したいときだけ作業すればいい。これは双方にとって大きなメリットでしょう。特に作業者にとっては時間的拘束を受けないということで、家事や育児や介護の合間にこなせるのは大きなメリットです。
誰もが新卒で就職した会社でフルタイムで定年まで働ければ幸せかもしれませんが、現実にはそううまくいくわけではありません。転職は当たり前になりましたし、育児や介護で休職することも珍しくありません。自身の病気もありますし、勉学に励むという形で仕事を中断することもあるでしょう。そうした時に、時間的自由度の高い形で働ける手段があれば、生活の足しに少しでも稼ぐということが出来ます。クラウドソーシングだけで生計を立てるのは難しくても、副業として、生活の足しとしてなら十分に意味を持つ可能性はあるでしょう。