この記事で知って面白そうだったので買って読んでみた。正確には新刊で買ったのは上巻だけで、下巻は古本でですけれど。だって下巻の新刊は売り切れだったんですもん。って、そんな話はどうでもいいですな。
で、読んでみたんですが、めっちゃ面白かったです。これは凄い本です。
この本は大きく分けて二つのテーマというか内容が詰まっています。一つは、四国遍路のドキュメンタリー。もう一つは、生きることに真正面からぶつかって悩むこと。
まず四国遍路のドキュメンタリー。個人的に四国遍路には興味があっていつか行きたいなと思っていたりします。なんで、多少情報収集もしていたりするんですが、そうした中で手に入るのは良い面が多いんですね。四国の人の人情であったりとかお接待の文化であったりとか。それはそれで間違いないだろうし、本書でも随所に出てくるところではあります。
しかし、本書では良い面に触れるだけではない。人間いい面もあれば悪い面もあるのが当然と言えば当然。となればお遍路さんにも、地元の人にも、さまざまな人が居るのは当たり前のこと。それらを隠さずに正直に書いているというのは少なくとも私はこれまで見たことはなかった。なので、自分も含めてですが、お遍路さんにポジティブなイメージのみを持っている人は本書を一度読んでみて、お遍路さんのさまざまな面を知ってみるというのはいいと思います。
もう一つは、生きることに真正面からぶつかっていること。人間誰しもこうありたいという自分像と、実際の自分のギャップに悩むところはあると思います。それだけではなく、様々な要因によって生きたいように生きられないというのが人間。でも、普段の生活のなかではそうしたことに真正面から向き合っていると消耗しすぎてしまって、正直言ってやってられない。自分自身を含めて何かとごまかしながら生きているのが大多数の人間ではないかと思います。
でも、歩き遍路をしていると、そういうことに真っ正面から向き合う時間が出来る。ただひたすら歩く毎日。いやでもいろんなことを考えてしまう。歩くことが修行なのではなく、歩くことによって思考する時間を得て、そこで思考するのが修行なのだと、本書を読むといやでも分かる。
歩き遍路をしている人を「自分探しをしている」と揶揄する描写も出てくるけれど、実際にその通りだと思う。私はまだ歩いたことがないので思うとしか言えないけど。でも、歩いている人は自分を探しているんだと思う。歩いたからって見つかる保証は無い。でも、歩くことによって探すことは出来る。それが貴重な体験になるのではないだろうか。
歩きながらの主人公たちの心の声の描写は、ときには「やめてくれー」と叫んで本を閉じたくなるほどの迫力がある。なかにはこういったことに全く悩まずに人生を送っている人もいるのかもしれないけれど、多くの人は大なり小なりこうした心を抱えているのではないだろうか。
実際に歩ける人は歩いてみるといいのかもしれない。でもそう簡単にはいかない人も多いだろう。自分も含めて。そうした人は、この本を読んでみるといいのではないだろうか。