正しい保険の入り方

保険ってなんだろう。保険の仕組みはどうなっているんだろう。どんな保険に入るのがいいんだろう。自分なりに調べて考えてみたことをまとめてみました。

はじめに

私が生命保険に加入するにあたって勉強した事、考えた事をメモとしてまとめておきたいと思います。当たり前の事ですが、ここに書く事は私の保険に対する考え方であって、これが万人にとって正解というわけではありません。ここに書いた事を実践して、将来何か不利益があったとしても私はその損害を賠償しません。また、書いてある内容は正確である事を心がけていますが、必ずしも正しいとは限りません。誤りを見付けられた方はご連絡いただけると助かります。

そもそも保険とは

そもそも保険とはどういうものでしょうか。国語辞典には次のような説明があります。

偶然的に発生する事柄(保険事故)によって生じる経済上の不安に対処するため、あらかじめ多数の者が金額を出捐(しゆつえん)し、そこから事故に遭遇した者に金銭を支払う制度。〔英語 insurance の中国語訳からの借用〕

三省堂提供「大辞林 第二版」より

つまり、あるグループ内で事前にお金を出し合い、特定のメンバーに生じた損害を補填する為の制度ですね。グループは日本国民全員だったり特定の保険会社の顧客だったりするわけです。また、保険が成り立つ為には、損害は一部のメンバーだけに発生するものでなければなりません。グループ全員に損害が発生するのなら、貰えるお金は最初に出した金額を上回ることが出来ませんから、保険を掛ける意味がなくなってしまいます。

そもそもリスクが存在しない所に保険を掛ける必要はありません。自動車に乗らない人は自動車保険を掛ける必要はありません。また、損害が発生してもそれなりの所持金を持っていて補填する必要がなければ、これまた保険を掛ける必要はありません。

個人の資産では対応しきれない、比較的起こる確率の低いリスクに備える為に、みんなで協力するというのが保険の基本的な仕組みという事になります。

保険料の仕組み

保険料はどういう仕組みで決まっているかというと、基本的には次の数式になると思っていいと思います。

保険料 = 補填額 * 損害発生率 + 運営経費

例えば、10% の確率で発生する損害で補填額が10,000円、運営経費が500円であれば、保険料は1500円になります。補填額が高くなれば保険料は上がりますし、損害発生率が高くなっても保険料はあがります。100%の確率で損害が発生するなら、補填額は保険料から運営経費を差し引いたものになって、保険を掛けた意味がなくなります。

保険料の仕組みは上記の通りですが、長期契約が前提となる生命保険や医療保険の場合、保険契約中に損害発生率が変わるという問題があります。一般的に言って、年を取るほど病気や死亡のリスクが高くなりますから。

年々変わる損害発生率に対応するため、生命保険では大きく分けて「自然保険料方式」「平準保険料方式」「全平準保険料方式」の三つの保険料の仕組みがあります。

「自然保険料方式」は、損害発生率に合わせて保険料を毎年計算しなおす方式です。もっとも理にかなっている方式だと思いますが、年々上がっていく保険料は心理的な負担感があります。

「平準保険料方式」は、5年や10年と言ったある程度の期間は保険料を一定にする仕組みです。年々、損害発生率が上がっていくのにどうやって保険料を一定にするのかというと、その方法は非常に単純で、保険料を一定にする期間のそれぞれの損害発生率の平均を取るだけです。つまり、先の期間の高い損害発生率を早い期間の低い損害発生率とならしているわけですね。トータルの保険料は自然保険料方式と変わりませんが、年々保険料が上がっていくわけではないので、負担感は少ないですし支払の計画は立てやすいです。ただし、5年や10年といった期間が終わり、保険を再契約または更新すると、保険料が一気に上がります。更新時に保険料に驚くという話はよく聞きますね。

「全平準保険料方式」は、平準保険料方式を更に推し進めたもので、契約の全期間の損害発生確率をならしたものです。当然、契約期間中に保険料が上がる事はありません。「保険料が一生上がりません」と宣伝している保険があり、一見お得なように聞こえますが、何のことはありません。先の保険料を手前にもってきているだけです。

お得な保険

お得な保険がないか、というのがよく話題になりますね。私の考え方ですが、基本的に得な保険というのは無いと思ってます。無事故ならボーナスが出たりとか、病気になって以降は保険料を支払わなくていい保険なんてのがあって、一見お得なようにも見えますが、実はその分保険料が上乗せされているだけですから、お得でも何でもありません。保険会社は慈善事業ではありませんので、保険会社がお金を払ってくれるわけではありません。自分達が払った保険料が形を変えて戻ってくるだけです。その基本を考えると、お得な保険などありえない事が分かると思います。

似たような内容の保険で大きく保険料が違うケースがあるかと思いますが、それは細かな条件に違いがあるはずです。小さな文字で但し書きで書かれている条件ですが、実は保険商品として大きく違いが出るという場合も少なくありません。単純に主保険と保険料だけで比較するのは危険だと思います。

とはいえ、多少は得な保険というのも考えられなくはありません。その一つは運営経費が安い事。もう一つは運用利回りが高い事です。運営経費が安いと、その分保険料を安くする事が出来ますから、お得になりますね。また、生命保険など長期に掛ける保険では、その期間中保険会社は預かっている保険金を運用して増やします。この運用の利回りが高いと、その分保険料が安く出来ますから、お得になります。バブル期の保険では予定利率が高い為、そのまま持っているのがお得ですよという話は、ここから来ています。

また、お得な保険の掛け方というのもある事はあります。それは、自分が取りうる損害発生率を出来るだけ細かく設定する事です。保険料は損害発生率に比例しますから、損害発生率が低いほど保険料も安くなります。最近はリスク細分型と言って、喫煙や肥満などのリスクを分けて保険料が設定される保険があります。この場合、非喫煙者の方は、より損害発生率の高い喫煙者と同じグループに入ると、本来自分が持っている損害発生率より高い確率であると見なされますから、余分な保険料を払う事になります。非喫煙者グループに入れば、自分がもっている低い損害発生率に応じた保険料で済みます。

一方、損な掛け方というか解約の仕方というのもあります。それは、平準保険料方式の保険を途中で解約する事です。平準保険料方式では、先の高い損害発生率を手前に持ってきてならしているわけですから、単純に言って期間の半分はその時点の損害発生率より高い保険料を払っています。その後の、損害発生率より低い保険料で済む期間を経ずに解約するという事は、保険料を余分に払った事になるわけです。途中解約では解約払戻金が出る保険もありますから、絶対的に損とは言い切れませんけれど、少なくとも得はしませんね。

得はしないかもしれないけど、損をしない掛け方として、潰れない保険会社を選ぶという点もあります。当たり前の事ですけれど。ただ、将来絶対潰れない保険会社なんて分かりませんから、ソルベンシーマージンや格付けなどを見て自分で判断するしかないでしょう。外資系の場合は日本市場から撤退したり、国内生保でも他社との合併などの可能性がありますから、これらの指標だけでも判断しきれなかったりします。どうしてもこうしたリスクを回避したかったら、複数の保険を分散して掛けるという方法もあると思います。

保険の基本は、あくまでも困った時に助けてもらうものです。利益を得る為のものではないと思います。

他人の為の保険

独身者で自分に万一の事があっても特に困る人が居ない場合は、生命保険をまったく掛けないという場合もあるかと思います。この場合、損害が発生しても補填する必要がないわけですから、保険を掛けないのも理にかなっています。

ところで、保険にはこうした自分の為の保険の他に、他人の為の保険でもある損害保険もあります。自動車保険や火災保険など、自分が他人に迷惑を掛けた時に、その他人に支払為の保険です。他人の為の保険といっても、直接補填を受けるのは自分自身であるのは変わらないのですが、最終的には他人にお金が行くわけですから、他人の為の保険と言えると思います。

保険を掛けておらず自動車事故を起こした場合、自分が保険を掛けてなかったわけですから、自分の怪我に補填が無いのは当然の事です。ところが、その事故で他人にも被害を与えてしまった場合はどうでしょう。事故を起こした人が大金持ちならいいですが、そうでない場合巻き込まれた他人は損害を補填してもらう事が出来ません。事故に遭うとき、保険を掛けている人から事故に遭いたいというように選ぶ事は出来ませんから、他人の為の保険は必ず掛けておくべきです。「私は運転がうまいから事故なんて起こさない。だから保険も不要」なんて事は、お願いですから言わないで下さい。

終身保険

保険とは低い損害発生率のリスクをみんなで分け合うものと書きましたが、例外として終身型生命保険があります。この場合、全ての加入者にとって必ずリスクは起こりますから、保険の仕組みを考えれば、運営経費の分だけ損をする保険という事になります。

しかし、実際の終身生命保険は損をするわけではありません。その理由の一つは、加入してから比較的短期間にリスクが発生した場合。この場合、支払済みの保険料は一部ですから、補填額が支払った保険料に対して大きくなり、保険の意味が出てきます。もう一つは、長期間の保険である事から、保険会社が預かった保険料を運用して増やす事ができるという事。こちらの意味では、保険というよりは貯蓄という性格が強くなります。

終身保険で注意しなければいけないのは、この保険で補填を受けられるのは保険を掛けている本人ではなく、家族などである事です。つまりは一種の遺産です。ある程度年を取った方が子供に資産を残したくて掛けるならともかく、若年者や独身者が掛けるようなものではないと私は思います。保険の営業員に「掛け捨てだと掛けたお金が無駄になりますから」と言われる事もあるそうですが、保険とはそもそも掛け捨てなものですから、無駄だったり損だったりするわけではありません。若年の独身者が保険を掛けるなら、終身保険ではなく、自動車保険や旅行保険、スポーツ保険などの個別保険に掛け捨てで入る方がよほど意味があると思います。

まずは社会保険/社会保障

これは別に私のオリジナルの考え方というわけではなく、最近溢れている保険の見直し方のマニュアルにはどこにでも書いてある事です。要は年金や健保をまずは確認しようという事です。

社会保険というのは実際には年金保険、健康保険、労災保険、雇用保険の四つを総称して言います。このうち年金保険と健康保険は日本国民なら基本的に全員が(年金保険は20歳以上)加入していますし、サラリーマンであれば労災保険と雇用保険にも加入しているはずです(小さな事業所では未加入のところもありますけど)。

余談ですが、年金は年金保険という保険です。よく「払った分だけもらえないなんて損だ」と言われていますが、それは貯金と保険を勘違いしているのではないでしょうか。(老齢)年金は長生きというリスクに対する保険です。幸福(?)にも早死にした人にとっては保険料は払い損です。でも、保険なんだからそういうもんなんです。年金保険の保険としての仕組みが悪いという非難は分かるのですが、年金は貯蓄として悪いと言うのはなんだかなぁ、と思います。

で本題の社会保険による保障。まずは年金保険。これは長生きしてしまった場合の老齢年金の他にも、遺族年金と障害年金という機能もあります。高度障害になったときに備えるのなら生保に入る前にまずは障害年金を確認しましょう。自分の万一の時の遺族の生活のためにというのなら、まずは遺族年金を確認しましょう。

健康保険。当たり前すぎて忘れられがちかもしれませんが、既に社会保険で医療保険が用意されているんですよね。余程の先端医療か民間療法でもない限り、3割の自己負担で治療を受ける事が出来ます。入院でも同じです。差額ベッド代は自己負担ですが、自分で希望しない限り払う必要の無いお金であるというのも、今では知られた話だと思います。健康保険には高額医療費に対する補償もあります。

労災保険によって、勤務中に起こった事故による医療や遺族補償を受ける事も出来ます。雇用保険により、失業した場合の補償も受ける事が出来ます。これらの全ての制度を使っても、なおかつ不足するお金を民間保険で補償するというのが考え方の筋道だと思います。

また、万一社会保険や民間保険を全く加入していなかったとしても、社会保障制度もあります。教育費にしても奨学金があります。本当に食うに困るような状況になったら、最後の手段として生活保護もあります。そう考えると、果たして「残された遺族」は保険がないと生活生活できないのでしょうか。住宅ローンなど、過大な借金については清算できる準備が必要でしょうが(そして住宅ローンは普通は団信が強制加入です)、それ以上の補償はなくてもそれほど問題ないと私は思います。

医療保険は無駄

最初に書いておきますが、貯金がほとんど無い人や、浪費体質で貯金がなかなか出来ない人にとっては意味のある保険ではあると思います。また、若年者が貯金が貯まるまでのごく短期間に加入するのもいい方法だと思います。しかし、それ以外のある程度の貯金を持っている人にとっては、医療保険はほとんど意味を為さないと思います。

単独の医療保険の他に生命保険の特約としての医療保険もありますが、ここでは両方をまとめて扱います。そもそも、どちらも大して内容に違いがありませんし。

さて私が無駄と切って捨てる医療保険ですが、その内容は月数千円の保険料負担で、入院や手術といった事態になった時に補填が行われるというものです。多いのは1回の手術で数十万円。入院は1日につき5千円から1万円程度の補填というものですね。

さて、これのどこが無駄か。例えば手術をして一ヶ月入院する事になったとすると、補填される総額は50万円から80万円程度でしょうか。確かに安い金額ではありませんが、この程度の金額であれば貯金として持っている人も多いでしょう。貯金が無いなら保険に入るのも方法ですが、貯金があるのなら保険で補填してもらう必要はありません。

保険料が受けられる補填に比べて格安であるならば、それでもまだ意味はあるかもしれません。しかし、保険料は月数千円程度です。30年も入れば、払った保険料は補填額に匹敵するでしょう。これはどういう事かというと、人間何十年も生きていれば病気や入院は一度や二度はするという事です。つまり、保険の原則である低い損害発生率というのが医療保険では成り立っていません。これなら単なる貯金です。それでいて、幸運にも病気や怪我をしなかった人にとっては保険料の払い損になるわけです。貯金なら、まるまるそのお金は手元に残るのに。

また、不思議なのは最近の医療保険では入院時の補填がどんどん短期間になっている事です。大抵は1泊2日の短期入院から補填が受ける事が出来るようになっています。1泊でも4日分の補填が受けられるのが一般的ですから、補填額は2万円から4万円ですよね。ただでもらえるなら嬉しい金額ですが、その原資は自分が払った保険料です。また、個人で受けきれないリスクを補填するという意味からすれば、2万円の損害で破綻する家計は、その家計自体をとっとと見直した方がいいでしょう。また、補填を受けるための手続きも別途必要ですし、診断書だって必要です(もちろん診断書料は有料)。この短期入院時の保証は、おそらくはせっかく医療保険に入っても短期入院では補填を受けられないのはなんだか損だ、という事で生まれた商品でしょう。しかし、これはそもそもの保険の意味を取り違えているんじゃないかと思います。

医療保険で言うならば、逆に30日以上など長期入院でなければ補填がないような保険があるなら、私は掛けたいですね。そうした長期入院は損害発生率が低いですから保険料は割安に出来ますし、もし起こった場合のリスクは比較的大きいですから。

個別の商品について

保険料の仕組みのところで三つの方式を書きましたが、そのうち自然保険料方式を取っている所は少なく、私の知り限りではD.I.Y生命しかありません。さすがに一社しかないという事はないと思いますので、他にもご存知の方が居られましたらお教えいただけると助かります。

さてD.I.Y生命ですが、お勧めの商品というよりは、私は便利なツールとして使っています。それは、自然保険料方式の上に、年齢ごとの保険料が全て公開されているのです。という事は、この保険料表を使えば、他社のどんな保険商品でもほぼ同等のものが自分で設計できるという事です。設計して求めた保険料を比較してみれば、D.I.Y生命とその保険商品との運営経費の比較が出来るようになります。他の商品についても求めれば、他社の保険商品同士の運営経費が比較できるのです。お得な保険など無いと書きましたが、それでも保険会社によって多少はコストの上下があります。どうせなら多少でも得な方がいいですから、こうした方法で保険商品同士を比較するのも一つの方法ではないでしょうか。

保険というと、最近では共済が採りあげられる事が多いようです。保険料は運営経費に影響されますから、営業員を使わない共済はその分安いというイメージがあります。間違ってはいませんが、共済によってはTVCMをバンバン流していますし、金融機関の窓口に販売委託しているわけですから、営業コストが全然掛かってないわけではありません。

ところでこの共済ですが、不思議な事が一つあります。それは何歳で掛け始めようとも、何歳になろうとも保険料が常に一定という事です(そうでない共済もあります)。保険料は三つの方式があると書きましたが、その三つは全て加入者個人単位で計算を行います。ところが、この何歳でも保険料が一定という事は、全加入者平準方式とでも言うべき方式になります。リスク細分型の全く逆で、加入者全員のリスクを均等化してしまっています。当然ながら、若年者といった低リスク層にとっては損な保険という事になります。逆にある程度高齢の方にとっては大変お得な保険という事になりますね。

とはいえ、共済は一般の生保ではとても受けてもらえないような少額でも掛ける事が出来ますから、とにかく低額でも最低限の保証が必要という場合にはいい保険だと思います。

それでも早めに一つは入っておきたい

全体を通して保険に割と否定的な事を書いてきました。矛盾するようですが、しかし若年者や独身者の方でもとりあえず安くてもいいので生命保険は何か一つは掛けておいた方がいいと思います。この場合、保険料が安くて済む掛け捨ての定期保険がいいです。仕組みが簡単ですから、保険の知識があまり無い人でも容易に理解できるでしょうし。

なぜ必要もないのに保険を掛ける事を勧めるかというと、年を取ると保険を掛けるのが難しくなるからです。人間誰しも年を取れば多少は体にガタがきます。入院経験も出てくるでしょうし、持病の一つも持つ事があるでしょう。そうすると、まず生命保険は掛ける事が出来なくなります。掛けられるとしても保険料が高額になってしまうでしょう。一生を独身で通す人は万一の事があっても残される家族が居ないわけですから保険は不要です。でも、人生何が起こるか分かりません。一生結婚をしないといっていた人が突然家族を持つことになったりする事も可能性としてはあります。そうしたときに、持病を持っていて保険を掛けられないと困った事になります。ですので、まさに保険の積りで何か安い保険を掛けておく事をお勧めします。