投資の本などを読んでいると、次のような例題が出ているのをよく見かけます。
- A 無条件で8万円貰える。
- B くじ引きで、85%の確率で10万円貰えるが、残り15%は1円も貰えない。
あなたならどちらを選びますか。
で、ぱっと見て答えるところでは、大抵の人はAを選ぶだろうと。しかし、期待値をそれぞれ計算してみると、Aは8万円、Bは8万5千円だから、Bを選ぶほうが確率的に得である。だからBを選びなさい、と。
これは、直感ではなく期待値に基づいた投資判断を行いなさいという教訓なわけで、それはそれで非常にためになるお話ではあると思います。しかし、一方でへそ曲がりの私は「本当にそうか?」と考えてしまうわけです。以下、その屁理屈をいくつか書いてみます。
挑戦回数が決められていない
このゲームのルールには何回挑戦できるか書かれていません。ですので、常識的に考えれば1回ということになるかと思います。
期待値というもっともらしい用語で解説されていますが、期待値というのはあくまでも実行する前に求める値に過ぎません。結果は期待値どおりにはならないのです。コイントスを10000回繰り返せば、表と裏の回数は5000回ずつにかなり近くなるでしょうけれど、1回しかトスしなくて0.5回ずつなんて事はあるわけはありません。ですので、このゲームの結果としては10万円、8万円、0円のどれかの結果しかありえなくて、期待値どおりの8万5千円貰えるなんて事はないのです。
頭と尻尾はくれてやれ
これまた投資本によく書かれていることです。相場の底や天井を完全に読みきることは難しいので、そこそこに下がったところで買って、そこそこに上がったところで売れという事です。極大の利益を求めて、失敗しては元も子もないですから。
その教えに従うと、10万円という極大の利益や8万5千円というちょっと上乗せの利益を求めてリスクを追うよりも、8万円というほどほどの利益で満足するのは、まっとうな投資判断のようにも思えます。
見方を変える
このゲーム、Bだけを考えれば期待値は8万5千円で間違いないのですが、Aという選択肢が加わることによって、少し違う見方をすることもできます。
AかBかを選ぶのはくじではなく自分の自由意志です。Aを選べば間違いなく8万円を貰えるのです。という事は、8万円を貰ったものと考えてしまっても差し支えないでしょう。すなわち
- B' くじ引きで、85%の確率で2万円貰えるが、残り15%は8万円を払わなければならない。
というゲームに参加するかどうか、という風に考えることも出来るのです。
最初のゲームだとノーリスクで10万円もしくは8万円のリターンだったのが、今度はリターンは2万円で、リスクは8万円というゲームに変わってしまいました。期待値は5千円と、トータルではゲームが変質しているわけではありません。見方を変えただけですから、当然ですね。でも、いくら期待値がプラスでも、こんなハイリスクなゲームに挑戦する人は多分居ないと思いますよ。
金額の持つ価値
福本伸行氏の「銀と金」というコミックに似たようなゲームが出てきました。
- A 無条件で5000万円貰える。
- B くじ引きで、50%の確率で5億円貰えるが、残り50%は1円も貰えない。
あなたならどちらを選びますか。
Aの期待値は5000万円で、Bの期待値は2億5千万円です。当然、投資セミナーの先生方は全員Bを選んでもらわないと困りますね(^^)。でも私なら迷わずAを選びます。コミックでも銀二はAを選ぶことを「賢明だと褒めたいくらいだ」と言っています。5億を棒にふったところで、5千万円貰えるですから。5千万円は、これまたコミックに出てきた言葉ですが「人生を変える価値がある」んですよ?
反対に金額が小さくなったらどうでしょうか。
- A 無条件で8円貰える。
- B くじ引きで、85%の確率で10円貰えるが、残り15%は1円も貰えない。
あなたならどちらを選びますか。
期待値はAが8円で、Bが8円50銭です。大人ところか、小学生でも「どっちでもええわい」って答えるでしょね。
つまり、投資判断において期待値を求めることは重要かもしれませんが、その期待値の絶対額が自分にとってどれほどの価値を持っているかは、それ以上に重要なのではないか、と私は思うわけです。実際、最初のゲームの設問にしたところで、8万円10万円という金額は一般庶民にとって「貰えると結構嬉しい。しかし、貰えなくても致命的に悔しいほどではない」金額として設定されているわけですから。