以前から合資会社、合名会社では最低資本金規制はありませんでしたので1円起業は可能でした。また、確認株式会社・確認有限会社でも1円起業が可能でしたが、会社法が施行されて原則全ての会社において最低資本金の規制がなくなり、1円起業できるようになりました。それはそれでいいんですが、報道などによっては、まるで1円玉を握りしめて法務局に行けば会社が設立できるかのように言っているようにもみえ、それは違うだろと思わなくもありません。少しその辺りの事を書いてみたいと思います。
まず1円だけで会社を作れるかというと、これはできません。1円で済むのは資本金だけで、会社設立の手続きには登録免許税や定款の印紙代など、どうしても省略出来ない費用があります。これらを含めますと、最低10万円程度はないと会社は作れません。
その資本金についてもですが、これは別に会社設立にあたっての政府への上納金でもなんでもありません。それはどちらかというと登録免許税などの方です。では資本金は何かというと、当たり前の話ですが商売の元手。どんな商売でも、始めるにあたっての設備投資と、実際に入金が始まるまでの運転資金は絶対に必要です。政府として、その費用は最低でも300万円(商法での有限会社の場合。商法での株式会社は1000万円)は掛かるんじゃないですか、というのが最低資本金規制の本来の目的なわけです。SOHO起業などでは300万円も要らないだろうという話もあるわけですが、1円で済むわけではないでしょう。
最低資本金制度は参入障壁、規制だったわけで、これも規制緩和なわけですが、緩和されて手放しで喜んでいいというわけでもありません。この規制はいわば元手も用意できない弱者が起業できないようにして保護していたわけですが、その保護が外れてしまったわけです。そこに参入して1円起業して、成功すればいいですが、失敗するかもしれません。むしろ、資金力がないわけですから失敗の可能性は高いでしょう。起業の失敗も自己責任になってしまったわけです。
実際のところ、受けを狙って1円起業しても、設立の時点でどう考えても資金が不足します。となると誰か(大抵は創業者個人)から借りてくるしかないわけで、それならば資本か負債かの勘定科目の違いだけで、実質は一緒なわけです。なのに、1円起業だと設立即債務超過です。その代わり、利益が出たら資本回転率などの指標はものすごい事になるでしょうけれど。
ま、私自身もたいした資本金を積まずに会社をやっているわけで偉そうな事は言えませんが、受けねらい以外の理由で1円起業するのはやめといた方がいいんじゃないかと思います。