distributed.netな日々:2019年11月

2019年11月12日:量子超越性

だいぶ時間が経ってしまいましたがニュースをご紹介。

Googleが1万年かかる計算問題を3分20秒で解き終える量子コンピューターを完成させる

ただ、いくつかニュース記事を読んでみたのですが、具体的にどういう計算問題を解いたのかというのはわかりませんでした。 おそらく英語のニュース記事や論文自体を読めば書いてあるのでしょうが、そこまでの知力は私にはありませんので諦めます。 とにかくどのニュースを見ても量子超越性についてばかりです。 google自身が量子超越性の達成を最大の成果として発表しているようなので、それも当然なんですけども。

量子超越性という言葉は私は恥ずかしながら初めて聞いたのですが、従来型のコンピュータでは計算困難な課題を量子コンピュータなら解決できることだそうです。 人工知能におけるシンギュラリティに似た概念と言えるでしょうか。

問題は、googleの今回の研究結果が量子超越性を実現したのかどうか。 googleは従来型のスパコンでは1万年かかってしまう問題を短時間で解けたので、量子超越性を実現できたと主張しています。 一方、このような記事もあります。

グーグルが主張する「量子超越性の実証」に、IBMが公然と反論した理由

IBMと言えば量子コンピュータの研究開発を行っている雄ですから、単純に従来のスパコンメーカーがポジショントークで言ってるのとは違いそうです。 IBMの主張としては、goolgeの1万年の見積もりは誤った前提で行っているので、実際には量子超越性を実現していないということです。

こう言ってはなんですが、科学の世界ではよくある話ではあります。 とある研究者が画期的な発見をしたと主張する。 それに対して検証が行われ、場合によっては反論を行なう。 元の研究者も更に再反論を行う。 こうした過程を経ることに寄って、研究成果は研ぎ澄まされ、より確固としたものになっていくわけです。 傍観してる一般人としては、画期的な発見があったのかなかったのかどっちやねんという気にもなってしまいますが、こればっかりはしょうがないことですよね。 量子コンピュータの研究が健全に行われている証拠とも言えますし。 現場で研究してる研究者にとっては、そんな達観した思いは無くて、胃の痛い思いをしていることだろうとは思いますが。

2019年11月13日:42

これまただいぶ旬を外してしまったニュースをご紹介。

人生、宇宙、すべての答えの「42」を3つの立法数の和で表す難問がついに解ける

ある数を三つの平方数の和で表せるかという数学上の問題。これまで多くの解が見つかっているのに、33と42がなかなかみつからなかった。33は最近になってようやく解けたけど、42がまだだった。そこをグリッドコンピューティングを用いて解けたというのが今回のニュース。もちろんグリッドコンピューティングの前に素晴らしいアルゴリズムの工夫があってのことですが。

グリッドコンピュータはCharity Engineというものだそうです。Charity Engineを私は知らなかったのですが、BOINCのソースコードを使用して運用されているグリッドコンピューティングプロジェクトだそうです。ぐぐっても日本語の情報がほとんど出てこない。時間があるときに英語の情報を少し調べて整理したいなぁ。

2019年11月21日:【RC5-72】Team Japan HAM Radio Stationsさんを抜きました

本日、Final Tear ZチームはTeam Japan HAM Radio Stationsさんを抜いて、世界順位が60位になりました。 解析済みブロック数は78,591,545です。

ちなみにですが、ここでの抜いた/抜かれた報告は相手が日本からのチーム(と思われる)場合に行っています。 日本だけ特別扱いというか、全チームを相手にするとしょっちゅう報告しなきゃならなくなるのでって理由です。

2019年11月26日:64コアCPUが登場

AMD、64コアの「Ryzen Threadripper 3990X」を予告

まだ予告の段階ですが、AMDが64コア128スレッドのCPUを2020年に発売すると発表したそうです。 そうですか。とうとうそこまできましたか。

私は別に常にCPUの市場を追っかけてるわけではなくて、たまに流れてくるニュースをこうして拾ってる程度なので、実際にはもっと多コアなCPUも世の中には多数あるのだろうと思います。 でも、多分AMD64(x86-64)アーキテクチャのCPUとしては最大なんじゃないですかね。 どうなんだろう。

ここでちょっと年寄りの昔話をしていいですかね。 1990年代の終盤はAMDによるCPUクロック1GHzの大台乗せがあり、2000年代初頭はIntelとAMDによる熾烈なクロックアップ競争がありました。 当然ながら、猛烈な勢いでCPUも高速化していたわけですね。 ただ、CPUの高速化は際限なくは行われるわけではありません。 最大の障壁は光速という物理法則です。 光より速く進むものは存在しません。 光速は秒速30万キロメートルです。 充分速いと思われますが、CPUクロックが1GHzの場合、1クロックでは30cmしか進むことができません。 つまり、CPU内のクロックに同期して動作する回路長を30センチ以内に抑えないといけないわけです。 30センチならまだ問題ないでしょうが、CPUクロックが2GHz、3GHzと上がっていくとだんだん厳しくなっていくわけですね。 そして光速というのは技術革新で乗り越えられるものではありません。 CPUクロックはこのあたりが、文字通り物理的な限界に達してしまったわけです。

クロックの上昇による性能向上が望めなくなったところで、各CPUメーカーはメニーコアへと舵を切りました。 一つのコアの性能向上を諦めて、コアをたくさん積むことでトータルの性能向上を目指したのです。

Distributed.net的にはこの方向は歓迎でしょう。 もともとが分散コンピューティングですから、マルチコアによる処理性能向上の恩恵は素直に受けられるのです。 シングルスレッドアプリケーションとはわけが違います。

個人的には、CPUクロック競争と同じようにCPUメーカーがマルチコア競争を繰り広げ、あっというまに100コアくらいのCPUが当たり前のように使える世の中になるのだと信じていました。 が、実際にはそうはなりませんでした。 その理由はいろいろあるのでしょうが、現実として2019年時点で一般に使われているCPUはせいぜい4コアから8コア程度が主流。 定義の上ではこれだってマルチコアですが、とても思い描いていた未来とは言えないものです。

そんななか、ようやくといっては失礼かもしれませんが64コア/128スレッドのCPUが登場するのです。 当初はとても庶民が買えるような値段ではないでしょうが、それでもとにかく商品化してくれないと買うことが絶対にできないのです。 ここは素直に発売されることをお祝いしましょう。 いつか、自分でも買えるようになる日を夢見まして。