「地震とマンション」西沢 英和, 円満字 洋介

2007/2/9作成

阪神淡路大震災の被災分析と復興をベースに書かれた、主にマンション建築を対象にした地震被害と対策に関する本。めちゃめちゃ面白かった。

柱が折れて傾いた建物ですら、修復可能と言うのは知らなかった。素人考えでは解体しかなさそうなのに。いかに建築技術が世間にしられてないのか。そして、その知られてないことが問題として、啓蒙するために本書が書かれたというのは素晴らしい。

被災直後に貼られる赤、黄、青が建物の危険度で、復旧可能度ではないというのも知らなかった。

過去の日本の大きな地震では、多くの復旧可能な建物が実際に復旧されたのも知らなかった。ただ、阪神淡路大震災の時のみ、なぜか多くの建物が解体された。何度もそう書かれながら、その理由は本書では明らかにされていない。分析がまだ出来ていないんだろうか。そこまで書かれるのなら、是非その理由を知りたい。

戦前の建築基準が現代の柔に対して剛と思想に違いはあるものの既に十分な強度を持つ基準であったというのも知らなかった。戦時中の物資不足という特異事情で建築基準が緩めら、言わば粗悪品の建築が建てられていたんだそうな。なるほど。戦前の建物はかなり数は少なくなってきているけど、まだまだ現存する。建築技術と基準が単調増加していたのなら、これは有り得ない事実だろう。ただ、そうすると疑問が残る。戦中や終戦直後という特異期はまだ仕方がないとして、高度経済成長期には建築基準を戦前レベルに戻す事は可能だったはずだ。しかし、実際には昭和56年の建築基準法改正まで放置され、その間に起こった地震で多くの建物が被災した。本書ではそこまで書かれてないけど、これは人災じゃないんだろうか。

筆者は構造学者の立場から、十分に設計・施工・管理された鉄筋コンクリート建築は100年持つと言う。それは多分正しいんだろう。ただ、建物の価値基準は構造だけではなく、意匠や設備、立地など様々な要素が絡んで来て、どれか一つでも寿命が来ると解体される運命にある。スクラップビルドの時代ではないとは思うけれど、ただ構造だけでは解決できない問題ではないのだろうか。