「孤立死」吉田 太一

2012/2/10作成

天国への引越し屋さん、キーパーズの代表取締役吉田太一氏の本。天国への引越しというコピーは秀逸でソフトだけど、その業務実態は凄惨だ。以前、テレビのドキュメンタリーで観たが、要するに一人暮らしなどで誰にも知られずに亡くなって、死後何日も経ってから発見された方の後片付けをする。当然、ご遺体は腐乱しているが、ご遺体そのものは警察などが処理してくれる。しかし、そのあとの部屋はこれまで誰も面倒をみる人が居なかった。死臭が染み付いた部屋を徹底的に清掃するのがキーパーズの仕事だ。もっとも、そこまで凄惨な仕事だけではない。遺品整理なども行う。これまで葬儀業者などだけではカバーできなかった業務を行うのが吉田太一氏の会社の仕事だ。

で、この本はそうした凄惨な現場を数多く経験してきた吉田太一氏による現場経験のドキュメンタリーかというとそうではない。そういう本も出しているそうだけど、この本は違った。吉田太一氏の経験を通して、現代の日本の社会のおかしな点を指摘し、どうすればいいのかという提案をする啓発書のようなものといったところだろうか。そういう文章には自動的にある程度の反発を覚える私ではあるのだけれど、口先だけのナントカ評論家と違って吉田太一氏の場合は圧倒的な現場経験があるので、その発言には一定の説得力があるように思う。加えて、単純な「昔の日本は良かった。今の日本はダメだ」論ではなく、今は今でいい点もあるし昔だって悪い点はあった、昔に戻ることは不可能だから、それを踏まえてこういう点を直したらどうかという提案なので、わりと受け入れることも出来る内容だった。

具体的に吉田太一氏がどういう提言をしているかというと、不健康な生活を改めてはどうかということである。吉田太一氏の言う健康には四つあって、容易に想像できる「身体的な健康」「精神的な健康」の外に「経済的な健康」「社会的な健康」が挙げられている。これらの健康が備わっていれば孤立死はしない。逆に言えば、これらが全て不健康な人は孤立死のリスクが高い。特に吉田太一氏が繰り返し述べているのは「社会的な健康」だろう。家族、友人、同僚、近所の人などと良好な関係が築けているか。吉田太一氏は繰り返し問いかける。

言われてみると、ドキッとする。同居の家族や仕事仲間とは毎日のように接するのでおいておくとして、実家の親と最後に話をしたのはいつのことだったろうか。友人と最後に会ったのはいつのことだったろうか。今はまだ働いている世代だからいいかもしれないが、引退したあとはどんな生活になるのだろうか。この本で知ったのだが、孤立死とは独居世帯に限った話ではないそうだ。親と同居していても、いわゆる引きこもり状態で家庭の中からも孤立していると、孤立死してその後何日も経ってからようやく発見される例もあるという。「社会的に不健康」なら孤立死のリスクはあるということだ。

普段の生活の中で、友人や近所の人などとの付き合い方を考えさせられる一冊だった。