「ディズニーランドの経済学」粟田 房穂, 高成田 享

2007/1/29作成

予想以上に面白い本だった。この本はディズニーランド開業直後の1987年に出版されている。それが2001年に増刷されていて、今読んでも内容が古びてないのは多分次の二つの理由から。

一つは、当時の消費者動向として「ハードからソフト」「量から質」「個人指向」などのキーワードが並べられているけど、そのほとんどが現在でも通用しそうな事。バブル以前と以後では時代的に大きな断絶があるのかと思っていたけれど、実は消費者動向は潮流としてはずっと続いているのかもしれない。変わっているとしたら、むしろ高度経済成長からオイルショックの時期ではないだろうか。本書ではそれを第二次産業中心から第三次産業中心への転換で説明している。

もう一つは、消費者動向が変わってないこともあってか、この20年間ディズニーランドが勝ち続けてきたこと。ディズニーランドがサービス業のお手本というのはずっと言われ続けているけれど、未だにそれを越えるところがないのはどうしてだろうか。その理由はいろいろあるだろうけれど、その一つとして思ったのは本書のこの一節。「会社の社長が従業員を連れてディズニーランドにやってきて「さあきみたち。今日一日たっぷり遊んで、ディズニーランドのサービスを学んできたまえ」と言う」。この社長はディズニーランドが優れている理由をスタッフの資質によるものだと解釈している。だからスタッフが成長すれば自社も成長できると考えているのだろう。しかし、本書を読めばそれが完全な誤解であることは明らかである。ディズニーランドは明確なビジョンがあり、それを実現するためのポリシーとオペレーションを厳格に実行することでその質を実現している。スタッフの資質を否定するわけではないが、それに依存する運営はされていない。

この本は開業直後に書かれたこともあって、ディズニーランドがスタートには成功したものの、今後飽きられる事への対策はどうなるかと疑問視している。結果的に20年間ずっと飽きられる事はなかっただけけど、どうして飽きられなかったのかを解明する続編があったら読みたい。

ところで、なんでディズニーがテーマパークかなんてこれまで考えたこともなかった。せいぜいキャラクターを持っているから、それを多角展開したんかなぁ程度の想像。が、とんでもない。実際にはディズニーは長編アニメと同じ手法でテーマパークを作っている。これは私の師匠が建築と映像は軸が空間か時間かだけの違いで本質は同じと言ったことと同じ事。師匠からそれを10年も前に聞いておきながら今まで気がつかなかったとは、うかつとしてもうかつ過ぎ。

ディズニーランド以外のテーマパークは見せ物小屋からの発展ならまだいい方。それならまだコンテンツ指向だから。それよりは土地を区切って何を作るといった土建屋敵発想で作られたテーマパークの方が圧倒的に多いだろう。バブル期に量産されたテーマパークはまさにそう。ディズニーランドより後から出来ていながら、今残っているのはいったいいくつあるのか。これではディズニーランドには勝てん。キャラクターありきのテーマパークでも、そこにストーリーや空間的/時間的演出がなくて単にキャラクターを見せるだけではやっぱりディズニーランドには勝てない。

地下トンネルなどの神話を作る手法や、ゲストだけでなくキャストまでもマジックにかけて忠誠心を高める方法は面白い。短期間のアルバイトにまで徹底した研修をするというのもすごいね。

経済記者らしく、土地の価格などへの考察もそれなりに面白い。ただ、後半の祭りとの関連づけなどは、面白くなくはないけど蛇足とも感じる。新聞記者としては問題提起の視点を入れたかったところだろうとは思うし、本書の真のテーマでもあるんだろうとは思うけど、ディズニーランド自体を知りたいという読者層からは離れてしまっている。