「極北シベリア」福田 正巳

2007/7/19作成

氷雪学を専門とする福田正巳氏によるシベリア地域の調査研究をベースとしたシベリア紹介本。学術研究をベースにしているだけあって、一般向けに書き下されているとはいえ、結構難解。おかげで読むのにも時間が掛かってしまいました。そして、正直内容を理解できたかというとちょっと辛いところもあったりして(^^)。まあ、きっかけになればいいんですよ。きっかけになれば。

研究レポートと共に、調査旅行中のエピソードなども紹介されていて、その部分は読み物として楽しい。極地に暮らすロシアの人々の様子。私が南極に行った時の船のクルーはロシア人達だったので、彼らのことを思い出しながら読んだ。

そのなかで、マンモスの牙を求めるマンモスハンターという職業があることを知った。なんでも、この地域には膨大な量のマンモスの死骸が残っていて、牙の輸出が大きな産業になっているとか。へー、って感じではあるが、そうして乱獲されるのはいいのかなとかちょっと疑問に思わなくも無い。特に牙だけならともかく、結構な頻度で氷漬けのマンモスの体の一部が見つかったりするらしい。そうなると、福田氏も書いているが、そこからDNAを取り出してマンモスを再生するなんてことが期待できてワクワクはするわな。それが実現できるかどうかは知らないけど。

シベリアといえば永久凍土なんだけど、その研究成果は軟弱地盤での工事において人工凍土を作ることに応用されているらしい。これも、へーって感じではあるんだけど、本書の冒頭にそれが出てくるのは、いかにも「これは役に立つ研究なんです」と主張しているようで、ちょっといやらしい感じ。興味を持ってもらうための導入としてはよかったのかもしれないけど。

永久凍土と氷河といえば、現代に残った氷河期の証拠なわけで、当然に筆者の研究も氷河期がリアルに関わってくる。過去の間氷期には現代よりもっと温暖化が進んだ時期もあったそうで、当然に今より海水面が高かったりもしたらしい。だからといって、温暖化が問題ないとは言わないが、そういう事実を考えると温暖化=地球滅亡に近しい捉え方って間違っているよなぁ。温暖化を含む環境問題は本来は科学をベースに検討されるべきなのに、すっかり政治の道具化してしまっている現状はどうしたらいいんだろう。

本書の終盤では、旧ソ連が行った核実験や無防備な原子力電池による放射能汚染について語られている。読んで、なんじゃそりゃーと思ったのは、旧ソ連では「土木工事の発破の代わりに核実験」「地震波で鉱脈を探すために核実験」なんてことをしまくっていたのね。しかも、その核実験の大半は存在自体が秘密という状態。まあ、現代では世界中に地震計が設置されまくった結果、他国に秘密に核実験を行うことはできなくなったわけだけど、当時は平気でできたんだろうねぇ。そうして行われた核実験の結果、シベリア地域が今度相当に長期間に渡って放射能に汚染されてしまったというのは、ほんとにやになる話である。

また、物体の年代測定に放射性炭素年代測定法がよく使われるけど、核実験によって放射性炭素の比率が変わってしまい、1950年以降のものには使用できなくなったということも初めて知った。今すぐにはともかく、将来の発掘調査では確かに困るだろうなぁ。そのときに別のいい方法が発見されていればいいんだけど。