どこかでぼろくその書評を読んだ事があって、どんだけひどい本かと思ったら、随分まともではないか。規模の小さな調査を元に憶測で書かれているんだけど、主観で書いているというのは著者も認識してるんだし。データに関する記述が多いので読みにくいのは困るけど。読み物的には十分な本ではないかと。
読んでて面白かったのは、豊かさの絶対値ではなく今後の増分の期待値が幸せ度に大きく影響を与えるという考え方。高度成長期の日本は明らかに現代より貧しかったが、今後の期待が大きかったために幸せだった。現代は豊かではあるが、今後さらに豊かになる見込みがないから幸せを感じられない。これって非婚や少子化の要因の一つでもあるんじゃないかな。家族が増えても今後豊かになっていく見込みがあるなら、その扶養負担はへっちゃらと思える。一方、現代では扶養負担はそのままそれ以前の生活からのマイナスを意味する。これじゃ誰も結婚したいと思わないし子供も欲しいとは思わないだろう。
全般的に筆者の主張は階層の固定化が行われつつあるという点にある。その是非とか、そもそも階層の定義とか議論すべき点は色々あるんだけど、とにかく筆者は現実にそういう事態が進行しているという仮説を立てている。この考え方は、以前読んで面白いなと思った貧乏人の正体というテキストに通じるものがあると思う。どちらの主張も、階層は固定化する性質を持っているものの、その仕組みを看過することで移動する事も可能であるとしている。その点が昔の身分制度との違い。